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[コメント] EUREKA(2000/日)

納得の217分
FRAGILE

 バスジャック事件で生き残ったバス運転手と小さな兄妹の話。

 観る者の心構えとして、まずこの作品が3時間37分という通常の倍近い上映時間であることが気になるところだ。一日に3回しかない上映、割高の料金に見合うかは重要な検討課題だ。

 結論から言ってしまえば、長さは(生理現象を除いて)ほとんど問題にならないだろう。決して通常の長さの作品を水増ししたものではなく、きちんと長さにあったエピソードが盛り込まれている。「『癒し』と『再生』の物語」なんて少々気恥ずかしい枕詞がついているが、そのフレーズのイメージ以上にそれぞれのエピソードは分かりやすく刺激的でもある。もちろん、上映時間に制限を付ければカットするシーンもあるのだろうが、それらが退屈に思えるようなことはない。

 既に定評のある役所広司の演技、セリフはほとんどないものの宮崎兄妹のただずまいは存在感をアピールしている。この3人だけでも十分とも思えるが、もう一人(不快なほど)饒舌な第三者が入ることによってセリフのない3人の感情のやりとりが温かく浮かび上がってくる。ちなみに、この第三者が気になった人は青山真治監督のデビュー作『helpless』を観ることをお勧めする。観ていなければならないことはないが、私は幸い観ていたために味わい深さが10%増しだったと感じた。

 映像に関しては微妙な色合いを見せるモノトーンが効果的に使われている。長めのカットではセリフのやりとりによってピントを合わせる対象を変えるなどの工夫がモノクロとは思えない奥行きを醸し出している。

 そして何よりもシネマスコープという画面のサイズが北半九(州)の風景をより広大に、またある種の虚無感といったものをリアルに映し出している。

 以上、上映時間、モノクロ、シネマスコープの画面といった条件から、この作品がきちんと家庭用のテレビで見ることは当分できないと考えられる。カンヌでの受賞やバスジャックといった題材に惹かれる向きも多いだろうが、可能であるならば機会のあるうちに映画館で鑑賞することを強くお勧めする。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)浅草12階の幽霊[*] ジャイアント白田[*] 秦野さくら[*] 隣の山田くん ina muffler&silencer[消音装置][*]

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