コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] スイミング・プール(2003/仏=英)

OUT
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







本作は作品の構成そのものに仕掛けられたトリックによって読者や観客を騙そうというタイプのミステリ。図式的構成を好むオゾン監督らしいし、オリジナル脚本にしては良く出来ている。

主人公がミステリ作家、つまり虚構世界の創造主たる資格を備えた人物である以上、鑑賞開始5分でその魂胆は見抜けるのだが、問題は”どこから虚構世界がはじまっていたか”だ。

で、俺は奇麗に騙されたわけ。シリーズものの新作に行き詰ったサラが、ジェリーをネタに一作書こうとノートに向かった時点がスタート地点だとまんまと信じ込まされてしまったのだ。「物語」は南仏到着の直後に、というか、そこへ向かう電車の中(*1)から既に始まっていたのに・・・。

実際、オゾンの騙し方は巧かった。雨のロンドンから南仏の別荘地に来たのに、真っ先にノートパソコンをセッティングしてしまう悲しい現代人の性(さが)。お馴染みのダイエット・コークにヨーグルトを買い込んで、夜は独りTVを観ながら過ごすという変わり映えのしない生活。其処へ愛人の娘が飛び込んできて好き放題やる。イライラしながらもつい覗き観てしまう。フォアグラも内緒で食べてしまう・・・。

こういう生活描写が丹念に執拗に描かれているからこそ、俺は騙されたのだ。愛人の編集者はそれをさして「情緒的」と云うのだろう。

鑑賞後に後を引く疑問について少し。

ラストの編集社のシーンで「実在」の娘ジュエルが登場するが、それまでサラは彼女に会ったことも、或いは見たこともなかったのではないだろうか。あそこで初めてその姿を見たからこそ、勝ち誇った満面の笑みで「実際」の娘に手を振る自分を「想像」することが出来たのだろうと、俺は考える。

もう一つ。「娘のことは聞いていなかったわ」という台詞は、冒頭の会話の中の「娘がいるんだ」に掛かっているのではないか。冒頭はボンヤリと画面ばかり眺めていて台詞を良く聞いていなかったので断言することは出来ないが、この映画が、初老の女流ミステリ作家が愛の呪縛(*2)、そして無限の再生産を期待されるシリーズものからの解放、『OUT』(by桐野夏生*)を勝ち取るまでの話であることを踏まえれば、ああそれが理由でケリをつけたんだね、と納得がいかないこともない。原語が判らないのでそれ以上は、判断のしようがないが。

*1・・・別荘に「プール」があることについて、サラは編集長ジョンから聞いて既に知っていたのだから、南仏行きの列車の中で”新作”『スイミング・プール』の構想は9割以上が出来上がっていた、と考えるのも不自然ではないと思われます。あとは実地調査を残すのみという段階。幕の張られたプールを覗き見るサラの姿が思い返されます。

*2・・・”愛の呪縛”は同監督の『焼け石に水』のメイン・テーマでもある。この作品では小麦色ではないサニエの”白い”肢体が拝めます。

*3・・・大ベストセラーとなりTV・映画化もされた彼女の出世作『OUT』には、それまでの作品(新宿二丁目の女探偵ミロを主人公にしたシリーズ)、犯人発見と事件解決、即ち「収束」しか許されない一般探偵小説からの、著者自身の「脱出」と「解放」の意味合いが込められていた。

さて長々と書いてきたが、俺にとって最も重要なことはリュディヴィーヌ・サニエのちょっと大き目の乳綸が俺は大大大好きで、誰が何と言おうと断固支持したい、ということである。分別ある大人ぶるのもいいが、みんな、もっと正直になろうや。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (10 人)プロキオン14[*] サイモン64[*] ボイス母[*] トシ[*] ナッシュ13[*] kaki[*] takamari[*] リア ねこすけ[*] makoto7774[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。