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[コメント] 華氏911(2004/米)

私のような奴が「これは映画じゃねえ」と主張すればするほど、ムーア監督は喜ぶのでしょう…私はどうせ知ったかぶりの馬鹿です。監督の手に乗ります。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 アメリカ本国では相当なヒットを飛ばしつつも、賛否両論を巻き起こし、話題に事欠かないムーア監督の最新作。特に一昨年公開された『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002)が大変面白い出来だったので、期待して、公開当日に観に行く。

 確かに面白かったは面白かった。それは認めるし、興味深い点も多々あった。それも認める。

 しかし、これは一体なんだ?

 …いや、なんだ?と言われれば、確かに映画には違いないのだが、ここまでストレートに悪意に満ちた…と言って悪ければ、ここまで偏向した作品は初めてお目にかかった。ちょっと目が丸くなった。ストーリー性もなければオチもない。ただブッシュ大統領が2000年に当選した瞬間からイラク攻撃までの時間軸に沿って、自分の主張するデータだけを抜き取って、それをただ流しているだけ。ここまでやるか?って言うか、映画というメディアをここまで恣意的に用いた作品とは他に例を見ないのではなかろうか?実際、本作は映画の作り方をしてない。監督の政治的な主張のみが透けて見えるだけの作品だ。

 当時の大統領選挙で大接戦となり、特にフロリダ州での投票で疑惑まで出たというブッシュ大統領当選のニュースをいささか苦々しい思いで私も見ていたが(当時もマイノリティ無視とか強引な票集めとか、色々言われていたものだ)、改めて出されると、本当に不正で大統領になったという思いにさせられたし、その後、続々と入ってきたニュースで、多分こいつは歴史上に残る無能な大統領として記憶されることになるだろうとは思っていたが、それが輪をかけてそのような思いにさせられた(まさか911テロに至るまで、40%以上の時間を休暇に使っていたとは思いもしなかった)。

 ブッシュ大統領の価値観が変わったのは911テロにおいて。まさにこれはブッシュにとっては捲土重来の大チャンスとなっていたわけだ。それまでの無能ぶりから、国を救うヒーローに、そして国際法まで無視してのイラク攻撃へと向かわせる原動力となった。

 確かに彼は父と共に、いやそれ以上に歴史に残る大統領になった。

 その過程をこの映画では克明に追っていってる。

 確かに何故イラクへの攻撃に至ったか、私なりに持っていた疑問はこの映画によって氷解した。ブッシュ大統領とビン・ラディン一族との癒着こそが色々な意味での悲劇をもたらしたというのは、大変分かりやすい説明で、たいへんうなずくことが出来た。

 時折挿入される残酷な描写も含め、どれほど今のイラクが悲惨な状況にあるのかも、よく分かった。少なくとも、これを観たら、間違いなくブッシュ大統領を嫌いになれる。それは勿論、

 しかし、これまではこのような描写はテレビ若しくは書籍で行われていたはずで、それを本当に映画にしてしまうと言うのはいかがなものなのだろうか?

 私は一介の映画好きに過ぎないし、「だったら観なければいい」の一言で返されてしまうのは確かなのだが、なんかこう、映画というものを馬鹿にされたような気にさせられたのも確かな話だ。

 だからこれは私にとって、たいへんに疑問に残る作品となった。

 …こういう事を言う奴がいるからこそ、本作は賛否両論の激しいものとなり、だからこそ売れるんだろう。色々言っているが、是非広く観て欲しい作品であるのも事実だ。ムーア監督自身、このような反応を見越して…と言うより、このような反応を欲しがってるんじゃ無かろうか?私のような奴が「こんなの映画じゃねえ!」と主張すればするほど、本作は特異な位置づけがされ続け、結果として観る人間が増えていく。実はそれこそがムーア監督の狙っていたことなのかもしれない。監督が欲するのは、映画としての完成度ではなく、ニュース性に他ならないのだから。

 ただ、これはこの作品だけにして欲しい。以降このような形で映画が作られないことを願いたい。

(評価:★3)

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