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[コメント] 男たちの大和 YAMATO(2005/日)

やっぱ「戦争もの」は東映だよなって気持ちと、平成にもなってまだこの解釈を強要されるのかっていう未消化な気持ちが混在する。
sawa:38

東宝『太平洋の翼』で加山雄三扮するパイロットがB29の大群に向かって言う悲痛な台詞:「出てけ!日本の空から出ていけ!……」この台詞がこれまで私が鑑賞してきた戦争映画で最も忘れ得ない台詞です。

本作は昭和後半の時代に量産された東映戦争映画の枠を踏襲し、その枠を一歩もはみ出さない古風な作りに終始した。そこに目新しさは何もなかった。CGという技術を得た戦闘シーンこそ迫力は増したが、ドラマ部分は旧態依然とした反戦ドラマが繰り広げられ、「普通」の東映映画だった。

今更なぁって気持ちが湧く。現在の日本は戦後初めてと言ってよい程の保守回帰の空気に満ちている。ワールドカップ、小泉純一郎、中国、北朝鮮。ナショナリズムが封印を解かれ、公然と他国を非難する言動まで容認できる国家になった。あたりまえの国家と言えばあたりまえ、怖いと言えば怖い。

そんな日本の風潮に冷水を浴びせる役目を持った作品なのかと思ったら制作は角川春樹。でもって大新聞朝日が後援というまったく訳のわからない組み合わせの妙な作品に仕上がってしまった感がある。

戦後間もない邦画界は「戦争映画」というジャンルを意識しないで、ほんの何年か前の出来事として「戦争」を描いた。中には娯楽作品に徹したものも数多くある。『独立愚連隊』に罪は無い。だが現在の日本では『独立愚連隊』を制作する事は出来ない、社会が未だそれを許さないだろう。平成18年度から防衛庁が防衛省に名称が変わっても、否変わったからこそ、そんな映画は作れなくなる。

上記の『太平洋の翼』の台詞は圧倒的多数のB29に対して泣き叫び言う台詞である。そこには反戦思想も好戦思想も無い、鎮魂でも無い。ならば何なのか?それは末期を迎える日本の悲痛な叫びであり懇願である。ややもすると好戦的に受け取られ易く、反米に転化する懸念はあるが、戦後60年経った日本にはこういった台詞が似合う風潮が出来てきている。

平和日本の口調で語られる本作のような「戦争映画」でなく、アノ時代の空気を描く「時代映画」を見たい。この手の作品はもう充分世に出、その役目を果たしたのではないだろうか。アメリカと戦争をしたことすら知らない世代がいるのなら本作の必要性もあるだろう。だが、そんな映画はアメリカ人の監督がわざわざ作ってくれる世の中になったのだ。我々日本人はもうひとつ上の次元の映画を作ってもらいたいものです。

(評価:★3)

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