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[コメント] 大人の見る絵本 生れてはみたけれど(1932/日)

子供の目にありのままの形で写る、オトナたちの日常の様々な営みが、いかにオカシくって不条理でシュールであったりするか。「オトナの見る絵本」はそんなことを苦味を加えて教えてくれる。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







おじいちゃんの入れ歯自慢とか、自分ちの自動車を自慢する葬儀屋の子供とか、ライオン歯磨きとか。子供たちは意味もわからず何でも形で評価が始まる。たいがいのことは微笑ましいで片付けられる。しかし困ったことに理解不足ゆえに、子供の感受性にはほとんど規制がない。そんな子供たちの目には、大人たちのやましさゆえの暗黙の了解さえ写しだしてしまう。貧富の差、階級社会。微笑ましさに苦さが加わる一瞬である。

そんな社会を写す鏡としての子供たちを描きながらも、感受性に必要以上の規制を受けてない子供たちの生き生きと逞しい姿自体も、また素晴らしく魅力的であったりする。よく年配の方たちが昔の子供の教育がいかに優れていたかと、今の子供を見てこぼしたりするが、このような子供たちを見て、そんな不満の理由の一つを教えられたような気もする。

それにしても秀逸なのは後半の方の展開。「お父さんみたいにエラいオトナになるんだぞ」という教えと、外での父親の上司にたいする媚びへつらいのギャップに、理解できずに断固不条理だと意地を張る子供たち。そんな彼らにココロ優しき小津監督が用意した子供たちのハンストの挿話。意地を張りつつ、最後には空腹に負けでしまう子供たち。彼らはその瞬間、「メシにありつくには、妥協も必要なのだ」ということを、誰に教わるでもなく体得してしまう。そこで見ているこちら側は、子供に必要なのは知識の詰め込み以上に、カラダで学ぶことだと監督から教えられる。

斜に構えたりひるんだりせずに、社会の様々な未知なる事柄を、正面きって未熟な体で受け止めようとする子供達。そんな子供たちから思いがけず跳ね返ってきたり授かったりするもの、それが「オトナの見る絵本」なのだと思う。

そして最後に。素晴らしい数々のセリフを字幕で見せてくれた伏見さんにも拍手!

(評価:★5)

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