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[コメント] ブロークバック・マウンテン(2005/米)

まるで描いたような美しさ。時にそれは感触を拒むかのように実感に乏しく、時に哀しいほど虚ろに見えたりもする。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







確かにその愛は「錯覚」なのかもしれない。愛と肉欲がごっちゃになった思春期のまま、成熟するための様々な経験を重ねることもなく、二人は年を重ねていったのかもしれない。そして、偽りに固められ外への扉を閉ざした生活の中で、二人の時間がより一層「真実」として映ったのだろう、とも思う。

でもそれがかけがえのないものと思えるならば、それはそれでいいんじゃないか、と思ったりもする。様々な時の事情があり、様々な葛藤があり、時に周りの人間を傷つけ、つくづく自分がイヤになり、それでも手放すことができないもの。それは理解できた。快楽込みであっても、ヤク中の矯正みたいなものとはワケが違うことも。

個人的には同性愛云々よりも、様々な情報が氾濫している現在では、その時代の広大なアメリカの中のちっぽけな片田舎の保守性こそが計り知れないものに思えた。そんな世界の中で怯えながら肩を寄せ合う二人。寄せ合う片割れが存在しただけまだ幸せだったのかもしれない。

とはいえ、実のトコロそこまで心に迫る話ではなかった。個人的には。気づくと距離を置いて観てしまう、というのか。ただ、一つ心を打ったのは、遺灰のシーンで初めて登場するジャックの両親。言葉少ない中にも、積年の愛憎や葛藤、諦念、そして許しが一気に迫ってきてグっときてしまった。きっと両親はジャックの全てを知っていたのではないか、と思う。「遺灰は家族の墓に入れる」というセリフに至るまでに、果たしてどれだけの葛藤の道のりを費やしたのだろう。きっと彼らは、気の遠くなる年月を、ただ自分たちの息子が(どのような形であっても)幸せな姿で還ってくるのを静かに待ち続けていたのだろう。そう思えてならない。

(2006/10/18)

(評価:★3)

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