[コメント] お茶漬の味(1952/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
その人の嗜好、考え方、美学、そしてこれまで辿ってきた人生までもが、日常のほんの些細なものを通して透けて見えてくる。例えばパチンコの楽しみを「幸福な孤独のひととき」と表現する男のコトバ、例えばラーメンを食いつつ「汁が・・・云々」とウンチクを垂れる男のコトバ。
しかし妻はというと、そんな他人の生活や嗜好などに自身を重ね合わせてみる楽しみや意義など、到底理解できないようで。彼女の倦怠は全てが「幻滅」からくるもの。自分の理想から外れることを許せない強情さは、結局は彼女が資産家の娘で、いつまでたっても抜けきらない「お嬢さん育ち」体質ゆえらしい。
しかしその「お嬢さん振り」が生きてくる、ラスト近くの夫婦の仲直りの描写の素晴らしさ。初めて家政婦抜きで、夫婦で食事の支度をするシーン。その慣れない共同作業の、初々しささえ感じるぎこちないやりとり。ぬかみその臭いのする手を、恥ずかしそうに夫に差し出す妻。そしてお茶漬けを前に見せる妻の涙。言葉少なに優しく接する夫。何といってもラスト近くのシーンの細やかさは、この映画を通した中でも白眉だろう。
その他にもハイカラ趣味や、お見合いと見送りのシーンの類似で妻と姪を重ね合わせて、妻の中のある種のコドモっぽさを端的に説明してみせたりと、相変わらずの描写の的確さ、細やかさはそこかしこに見受けられる。小津作品の中でも地味な部類に入るのかもしれないが、個人的には埋もれるには惜しい「佳品」だと思う。
(2002/9/12)
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (8 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。