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[コメント] ゆれる(2006/日)

検察官木村祐一と被告人香川照之による「女性特有の『生理的に駄目』攻撃に悩まされた経験有りコンビ」に芽生える一瞬の仲間意識が良かったね。「自信持ってくらはい!」と。ラストシーンはスタート地点に立ったに過ぎない・・。
新人王赤星

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







立ち振る舞いからなにからファッショナブルなオダギリジョーと田舎のGS経営者のダサい親父香川照之の対比が上手かった。

それは左ハンドルに乗ってグラサン革ジャケを颯爽と着こなす都会の売れっ子カメラマンの弟っていう設定だけじゃなくて、シャツをきっちりズボンにしまって川ではしゃぐ日本人体系丸出しのルックスな兄ってだけじゃなくて、女性監督から見た男の細かい仕草や言動に上手く表されてた。

久し振りにあった女の家に平気で上がりこむ強引さとか、ベッドシーンでの「舌出せよ」とか、せっかく女が男の為に料理を作ってるのに平気で帰り支度をしたりとか、女が真剣に東京行きの思いを語ってるのに「クソしてくるわ」と煙に巻いて女を振り回す弟の態度は、自信に満ち溢れ、女にもてる事を自覚している男のそれだ。嫌な奴かもしれないけど女は確かに引き付けられる。

それに比べて兄貴は良い奴だ〜。母親の一周忌で親戚筋に一人一人挨拶をして、横で遊んでる弟に文句一つ言わず後片付けを一人で淡々とこなし、かといって文句も言わず皆に気を配り接する。GSのバイトから「稔さんがいるから平気です」と言わしめる人徳。特にクレーマーを捌いたあと真木よう子と談笑している姿は本当良い人オーラが滲み出てた。

でももてないんだ・・。(涙)生理的に駄目って奴?これは生物学的により良い遺伝子を残す為に判断する女性特有に基準だと何かの本で読んだ事ある。

つり橋の上で真木よう子にしがみつき接近する香川照之の大きめな顔面。その不細工な振る舞い。こりゃ生理的に駄目だろう・・、確かに納得出来る(汗)。「触らないで!」の一言に集約されている、残酷で遠慮ない女の真実の声。

長年想いをよせてる女をあっさり寝取られ、自分への残酷な拒否反応を知り、挙句の果てに死なせてしまって兄は壊れた。弟の言う通りかつて兄は確かに立派な誇れる兄だった。しかし、兄は壊れた。田舎のしがらみの中、さえないGSでクレーマーに頭を下げ、父の面倒を見て、家事を切り盛りする監獄のような生活。それでも文句を言わず皆に気を使い、皆に慕われ、決して逃げなかった兄貴。そんな立派な兄貴が完全に壊れた。

自身の人生のつまらなさ。自由な弟への嫉妬、そしてそして、弟と違って女にももてない・・どんなに想った相手にも好意を持たれない惨めな自分。鬱屈してたまっていた人生の怒りが溢れ出しはじめた。

オダギリ・ジョーは確かに「兄を取り戻したかった」のであろう。それが裁判での偽証となり、兄を7年も監獄にぶち込んだのだ。この行為には正直複雑な気持ちだった。そりゃ無いだろう?って。だって本当は事故だったんでしょ?って。でも、あのまま無実を勝ち取り実家に戻ったとして兄は以前の兄で有り得たのかっていう気もする。「お前は殺人犯の兄を持ちたくないだけだ」と言い放った兄は確かに以前の兄では無いのだろうから。裁判での兄の謎の微笑が俺に深い余韻と考えを与える。

7年後のラスト、それでも弟はやっぱり逃げていた。全てを奪っておいて何言ってんだこいつは、俺は思ったよ。まあ、全てを奪った相手と向かい合うのは確かに勇気がいるだろう。ようやく逃げずに兄と向かいあう決心をして、走りだす弟。壊れた兄を取り戻す為に、誇りにしていた兄を取り戻す為に逃げずに向き合う決心をした。

7年たって、兄は変わったかもしれない、周りの環境も変わったかもしれない、あるいは何も変わってないかもしれない。とにかく兄と弟はスタート地点に着いたのだ。これからゆっくりと二人の人生を取り戻す旅に出るのだ。

(評価:★4)

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