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[コメント] グエムル 漢江の怪物(2006/韓国)

「恨(ハン)」の国の怪獣映画であることを認識する。怪物は脇役であり、主人公は怪物から我が子を取り戻すため、何が何でも生きる。それはもう、滑稽に見えるほどに。
水那岐

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最初は韓国によくある「うすのろのギャグメイカー」が主人公であることにうんざりしてしまった。売店の釣り銭によだれを垂らしつつ居眠りする頭の足りない男…。しかし、他方では怪物が毒物廃棄により生まれる、というもはや日本ではお目にかかれない怪獣の成立条件に胸躍るものを感じる。

ここに韓国映画ならではの重要なポイントが加わり、趣を増す。主人公、その父、大学卒の弟、アーチェリーで全国レベルの妹が病院に集結する。各々にとって、主人公の娘は可愛い、何物にも代え難い存在にかわりはない。それゆえにここに一個の戦闘ユニットが成立し、この事件を封印しようとする国家をも蹴散らして、家族は少女の救出と怪物の殲滅に向かうのだ。

少女の死を目の当たりにした家族らのうち、父は怪物に銃弾を撃ち込もうとして命を落とし、弟は民主化運動の闘士に倣った火炎ビンで怪物を追い詰め、妹は矢先にガソリンを含ませたタンポをつけた矢で怪物の体を炎に包む。そして水中に逃げようとした怪物に、主人公は交通標識を突き立ててとどめを刺す。このあたりの家族はずいぶん凛々しい。

こうして家族の物語は終幕を迎えたかに見えるが、もう一人、少女が怪物のエサの貯蔵庫(?)で見つけた親にはぐれた少年がいる。少女は脱出を試みるが、少年に「もし助かったらおいしい物を食べさせてあげる」と約束する。結局果たす前に少女は命を落とすが、この事件で男を上げた主人公は、少年をひきとって少女から受け継いだ約束のように、毎日手作りの料理を食べさせてやる。これが実はホームドラマだった本作の終幕であり、韓国人の特に家庭を重視し、その一端を冒す者は、たとえ誰であっても「恨」の精神で復讐を果たす基本形を我々は見ることができる。あまり深読みばかりするのも自分の組み立てた偽の王座にふんぞり返るようで好むところではないのだが、最後に救われるべき少女が死に、その代わりに彼女に守られた少年が主人公の新しい子供となるのも、ステロタイプな結末を敢えて拒絶するポン監督の意地が垣間見えて、居住まいを正さねばならぬ気分にさせられたものだ。テレビを消したことは、むしろ現実を隠蔽しようとする国家上層部(アメリカも)の欺瞞に背を向け、地道に自分の生き方を信じて生きてゆく男の決意のようなものが窺われた。それが結果的にグロテスクに見えてしまうにせよ…あるいは、これも家族という最小のユニットの一面でもあるのだろうか。

これは、きわめて韓国映画らしい怪獣映画なのだ、という事実に揺るぎはないが。

(評価:★4)

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