[コメント] ゼア・ウィル・ビー・ブラッド(2007/米)
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終盤に向けてエスカレートしていくダニエル・デイ=ルイスの暴力性の源泉をどうしたって詮索してみたくなる。競争心だけがあり欲望を持たない彼のキャラクターは、(『赤い河』のように)乗り越えるべき父親の存在を感じさせず、ただ期待と失望の振り幅だけの脆弱な人間関係しか生み出せない。
この映画の特徴は、油田火災以降において、その描写スタイルが大河ドラマからシフトし、徐々に内向性を増していくところにある。デイ=ルイスの身の回りの出来事だけを客観的に描写するストイックな演出は、彼の精神性に関係しない時代背景や地域社会の要素をそぎ落としていく。人物相関によるドラマを追求するなら、デイ=ルイスに拮抗する強烈なキャラクターを、例えばポール・ダノのポジションに据えるべきだが、新興宗教の教祖に見えないあの軟弱さには別の意図があるのだろう。
キャラクター同士をぶつけるのではなく、叙情的な映像表現に訴えるのでもなく、心理描写をするのであれば、それは役者の演技に負うということだ。成人したHWとの会話シーンにおいて、俺とお前とは多くの意見の相違があった、とデイ=ルイスは言うが、観客はそれをその会話で初めて知らされる。そんなことがあったんだ、と唐突に感じたが、それを納得させるのもまた王として君臨する彼の芝居なのだ。
そうした狂気の描写はスコセッシの傑作群を引き合いに出したくもなるが、目指すところが本質的に違う気もする。エンディングにそこはかとなく漂う滑稽さといい、どこかアートハウス系の匂いもするが、同時にしぶとい力強さも感じられ、ポール・トーマス・アンダーソンはこの作品で化けたといっていいのではないだろうか。
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