轢いちゃえば良かったのです。正に。

　正に正に大作娯楽映画として完璧なこの映画ですが、普通のヒーローもの大作とは異なる点がある。 登場人物が頑固すぎるのです。

　一見、悪評にも負けず人々の為戦う正義の味・方バットマンですが、ジョーカーが“Hit Me！”と要求した時に彼を轢けば良かったのです。 そうしたら悪の権化ジョーカーは死に街に平和は訪れた。(そして新たな悪が蔓延る。)

　何故殺さなかったって、バットマンが優しいとか実はジョーカーのことが好きだからとかではなく、バットマンが”頑固”だからです。ジョーカーが言うようにジョーカーとバットマンは正反対。両者とも両者を殺さないし殺されない。 轢かなかった理由は、あそこでジョーカーをひき殺すのは彼の信念に反するからタダそれだけ。彼が頑なに守っているのは“彼の正義”であって、それが結果的に街を救っているというだけの話なのです。それがこの『ダーク・ナイト』。

　ジョーカーも頑固さでは負けていない。 どんだけバットマン好きなんだアンタ。いや、彼が本当に好きなのは悪事タダそれだけ。 100%楽しんでいる。彼の悪事は娯楽だ。父親に「口が裂けるほど笑え！」なんて言われたことも嘘。(注1)不幸な生い立ちから訳あって悪となった同情吸引機ダークヒーローとは訳が違う。 彼が頑なに行っているのは“彼の娯楽”であって、それが結果的に街を貶めてるというだけの話なのです。それがこの『ダーク・ナイト』。

　物語後半の出来事は二人の頑固が生んだ悲劇で、その悲劇に巻き込まれたのがT-800ならぬトゥーフェイスくん。あ、ゴードン一家も忘れちゃいけない。

　映画ファンとお茶の間の人々共に好評を頂いている『ダークナイト』、悲しき騎士のおはなしかと思いきやタダの頑固な二人のガチンコ対決なのです。 この映画は悲劇やら純愛では無い。ガチンコ、熱血そりゃウケる。それ故の満点。

注１　ジョーカーの語る逸話は毎回違うらしいです。多分そういうキャラ。ジョーカーは過去も未来も楽しまず今在る絶望だけを楽しむ。