[コメント] 空気人形(2009/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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予告編を見て「これは泣けるにきまっている!」と思って号泣する覚悟で初日に行ったら、まるまる2時間予告編みたいな映画だった。人物が人物として描かれてないし、話の筋が通ってない。
というか、筋なんか通す気がないんだ、最初から。
設定として共存できないはずのシーンがたくさんあるし、簡単に受け入れられないことを受け入れてしまう人物がたくさんいる。みんなが画面の都合だけで動くどころか、画面の都合で設定や視点までひっくり返ってしまう。代用教師だったじいさんや年増の受付嬢などの登場人物、それに吉野弘の詩だとか「代用品なのよ」とか「性処理のための」とか「みんな空っぽ」とかいうセリフ、そういう一個一個の部品が有機的につながることもなく、ぜんぶ部品のまま提示されてしまい、単に、それっぽく見せながら時間を埋めているだけにしか見えない。
こんなの、意図的にそうしてるとしか思えないし、それをもって詩的な映像でメタファーをどうこうってのは、意図としては理解できなくもないけど、ちょっと受け入れがたかった。だって店長にしても板尾にしてもドラマで孤独を描くわけじゃなくて、予め設定されている過去の悲劇や心の闇を後出しにしてるだけなんだもの。こういうのは好みじゃないっていうか、シーンがちゃんと美しくて訴求力が強いだけに、いささか不快なんだ。ひさびさに不快な是枝監督がかえってきた! おかえりなさい!
で、そんな風にこの作品を画面のまま素直に楽しむことも深読みすることも拒否した鑑賞者である私が「で、何がしたいんだ?」「これはいったい、誰の見た夢の話なのだ?」と斜にかまえていたら、いきなりドストレートに出てきてびっくりしたのが、「お前の空気を抜きたい」というアレですよ。要するに、そういうことをしたかったんでしょ、この映画は。と。
ぺ・ドゥナが空気人形だったら何がしたいだろう。「空気を抜いたり入れたり」という、ちょい変態なオナニーがしたい(これ、空気はちんこのメタファーですか?)。そんなオナニーにふけってしまったら、きっとぼくは自己嫌悪で死にたくなってしまう。ならば、せっかくだから心を持った彼女にむちゃくちゃキスされながら殺されたい。そして、そんな最低なぼくの死体はどうか、燃えるゴミとして捨ててください……。
それなら、全面的に同意ですよ。ほんとにそう思うよ。死体になってぺ・ドゥナに階下まで運ばれるって、いったいどんな気分だろうね。ああ、この映画はまちがいなく作家の映画だと思いますよ。このシーンだけで★4です。
で、そういう解釈をしてしまったうえで、私が望むのは、2代目の“のぞみ”が心を持ってしまった際には、ぜひともサトエリでお願いしたいということだけなのです。できればMUTEKIで!ムリか!
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