母親の息子に対する愛情とは、いたって個的なものであり、その強烈な発動は周囲に不穏さをまき散らす。むき出しになった母の愛には、境界が曖昧になってしまった母性愛と異性愛の混沌が存在するからだ。豪腕ポン・ジュノは、持ち前の骨太な演出手腕を駆使し、そんなやっかいな「愛」で映画を貫き通し一級のサスペンスを成立させる。このサスペンスを支配する恐怖とは、息子（すなわち、すべての男）は母の存在なくして、自らの生命の起点は得られられなかったという恐怖だ。

その母が、息子（繰り返すが、観客のなかのすべての男）のために、倫理も法も踏み越える。人としての禁を侵した母（キム・ヘジャ）の踊りは、なにやら呪術的な狂気を漂わせる。その夢遊病者の恍惚によって、観る者は心に「抑圧と救済」のクサビを打ち込まれてしまうのだ。草原での踊りは、母的なるものの持つ重しの重圧を世の中のすべての男に意識させる。そして、バスでの踊りは、息子を持つすべての女への倫理を超えた免罪符だ。それは生命の源としての母が、自身と息子、そして女と男をつなぎ止めるためのクサビなのだ。

たくましくもあり、恐ろしくもある。そんな不穏が映画を支配している。