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[コメント] ハート・ロッカー(2008/米)

これでアカデミーを取れるということは、イラク戦争によってアメリカが負った傷はよっぽど深いものという事だろう。
Master

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







細部のリアルさはこだわりが見える。砂漠の砂・熱の感覚、爆弾の持つ質感、そういったものの訴求はかなり強烈である。兵士を実際にイラクに送っているアメリカの観客からすれば、比較的身近にその「悲惨さ」を感じられただろう。

とは言え、本作、ジャンキーを描きたいのか、ジャンキーに翻弄される周りを描きたいのか、イラク戦の異常性を描きたいのか、つまりはストーリーの幹が何なのか整理しきれないままエピソードを羅列しているというストーリーテリング上致命的な欠陥を持っている。ジェームズ(ジェレミー・レナー)のジャンキー振りを中心にするなら、サンボーン(アンソニー・マッキー)やエルドリッジ(ブライアン・ジェラーティ)の扱いはもっとぞんざいでいいはずであるし、ジャンキーに振り回される周りを中心にするのならジェームズが帰還した後に「家族」と過ごすエピソードなぞ蛇足以外何物でもない。爆弾処理班の行動を描くのであれば、途中にあるスナイパーに襲撃されるエピソードやタンクローリーの自爆テロ後のエルドリッジ負傷事件を組み込む理由が分からない。

斯様に製作者側に一本の話として構成を組もうとする意識が見えないため、とりあえず緊張感だけはあるという作品になってしまっている。ひとつ間違えれば自分はもちろん仲間も死ぬわけで、そういうシチュエーションだけで緊張感が醸し出せるのは当たり前。それを踏まえて何を描くかが問題なのである。そこに踏み込んでいないにもかかわらず評価されているという背景には、それぞれのイラク戦争の傷があるのであろう。それが作品のメッセージ以上に受け手に訴求しているとしか思えない。

大変だったろうなぁとは思うが作品そのものにはそれほど魅力を感じない。『剱岳』のような作品であった。

-- 追記(2010.04.09) --

この感想自体は変更しませんが、TBSラジオ「ウィークエンドシャッフル」内で本作に関する興味深い議論が展開されました。本作をご覧になって「よくわからない」という感想をお持ちの方は特に一度お聞きになることをおすすめします。

http://www.tbsradio.jp/utamaru/2010/03/dapart_1_1.html

http://www.tbsradio.jp/utamaru/2010/03/dapart_2_1.html

http://www.tbsradio.jp/utamaru/2010/03/dapart_3_1.html

ぜひどうぞ。

(2010.03.14 TOHOシネマズららぽーと横浜)

(評価:★3)

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