コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ハート・ロッカー(2008/米)

この映画に描かれているのは「情報」であってドラマではない。戦場で職人技に従事する兵士の話だが、リアリズムに傾倒するあまり、ストーリーの芯が失われてしまっている。主役不在の映画は繰り返し見るには値しない。それにしても一見の価値はあるのだが。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







序盤からクローズアップの短いショットが多く、爆発物のある市街地の全体像がなかなか掴めずイライラさせられる。手持ちカメラでストリートの様子をインサートするなどライブ感の演出も過剰だ。アスペクトがビスタサイズなのは、大量のフッテージを撮ったスーパー16の映像素材と合わせるためか。シネスコならこんなにチャカチャカした画にならないで済んだのかも。

ジェレミー・レナーの登場以降も、彼の傍若無人な態度があまりに無茶苦茶なので、なかなか映画に乗ることができない。だが国連事務所前の車載爆弾除去のくだり、周辺警護のアンソニー・マッキーとブライアン・ジェラーティの上階への警戒態勢が、周囲は潜在的な敵だらけ、という緊迫感を醸成していてテンションが上がる。起爆装置解除のサスペンスと、終了後のデビッド・モース演じる大佐との儀式的な対話もいい。

一番の見どころは、アラビアのロレンスばりのレイフ・ファインズ率いる賞金稼ぎの一団と遭遇するシーンだ。この遠距離狙撃のくだりはマニアにはたまらないだろう。バレットM107対物狙撃銃の射手となったマッキーと、観測手としてサポートするレナーのパートナーシップがじわじわと高まり、またレナーとジェラーティの弾倉にまつわるやりとりもオタク心を大いにくすぐる(銃器一覧はhttp://www.imfdb.org/index.php/Hurt_Locker,_Theを参照されたし)。このシーンは、銃声と被弾のタイムラグ、援軍が来ないこと、撤収までの時間の長さなど、どこを取っても上出来の演出だ。

さて、ここからは三人の絆がステップアップしていくはずだが、ストーリーを盛り上げるには遅きに失しており、そもそもそうした核となるストーリーを欠いた無愛想な映画だというのもわかってくる。例えばアルドリッチの「地獄へ秒読み」も第二次大戦後の不発弾処理チームを描いた映画だが、確かに古めかしい部分もあるものの、心を揺り動かすストーリーがそこにはあった。

ストーリーは形式に束縛される。だから、判り易い敵味方の図式に飲み込まれてしまう危険性も持つ。だが、やはり、映画の文脈として王道のストーリーを無視することはできないだろう。この映画は、ひとつひとつのミッションによって、キャラクターの関係性が成長してはいるが、それが観客の心を揺さぶるような、記憶に留まるようなドラマとして開花していない。だからやはり最後には、ドラマ仕立てのよくできたドキュメンタリーといった体にしかならない。「シリアナ」や「ユナイテッド93」のように、初見で劇場で集中して見ればもう満足。何度でも繰り返し見たくなるような映画的な高揚はここにはない。

アカデミー賞授賞式を見ての追記:文句も書いたが、監督賞、作品賞のオスカーW受賞はよかったと思う。ステージ映えするキャスリン・ビグローの後ろでメインキャストのボーイズが肩を組んで喜んでいたのも微笑ましかった。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)おーい粗茶[*] G31[*] カルヤ[*] ぽんしゅう[*] けにろん[*] 林田乃丞[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。