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[コメント] シャッターアイランド(2010/米)

水と火が印象的だ。島をひと所に押し込めるかのように断崖に寄せくる波、人工や自然を問わずあらゆる造形物を破壊せんばかりの豪雨、すべての過去にふたをするかのように微動だにせず重たく澱んだ湖面。そして、圧倒的な水量のまえで、あやうく揺れるマッチの炎。
ぽんしゅう

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







さしずめ頻出する水のイメージは、過去を記憶の底へと封じ込める不定形の重りであり、いざ覚醒せんとする記憶の手がかりを暴力的に洗い流してしまう制御不能な意識の象徴であろう。一方の火のイメージは弱々しい。微かに炎を灯しては消え、また擦られを繰り返すマッチの火は、圧倒的な水(忘却圧力)に抵抗する患者の、あるいは医師たちの懸命の思いのようだ。

デヴィッド・リンチが描く幻想が、悪意をほのめかせながら底へ底へと向かう混沌であるとすれば、ここでマーティン・スコセッシが節度を持って描いたそれは、混沌からの脱出者と救出者の激闘であり、いわば無意識の悪意と闘う静かなる理性と良心の物語である。

〔以下、蛇足ながら〕・・・・・・・・・・・・・・・・

別に推理劇としての「衝撃のラスト」に意味など始めからあるわけではなく、あえて何が「衝撃」なのかといえば、救出劇として被害者が閉じ込められた心の闇の深さと、そのどん底からの脱出をめざす懸命のあがきが、悲しいかな虚構回廊のどうどう巡りしか生まないやるせなさであり、さらに残された人生の行く末に立ち込める暗澹さにあるのだ。

それなのに、故意か不見識のせいかは知らぬが、あたかも「衝撃」の意味と内容が、説話的トリックやスクリーン上の事実認識のギャップのなかに存在するかのように歪曲、喧伝し、観客に無用な先入観を与えることで、このスコセッシの労作の意義を誤認させてしまった配給会社の、映画に対する愛情の欠如ぶりは許しがたい。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (11 人)Orpheus 赤い戦車[*] ナム太郎[*] ダリア[*] ジェリー[*] カルヤ[*] リア[*] kiona[*] 3819695[*] 天河屋[*] けにろん[*]

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