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[コメント] ベスト・キッド(2010/米)

ミヤギさんのドラマから、シャオドレたちの成長物語へ(オリジナル版のネタバレもあります。また、かなり長いです)
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







オリジナルも大好きだけど、あっちの場合、私にとってはミヤギさんが主役。タイトルがどうあれ、ミヤギさんに惹かれてこその映画、という認識。

マッチオ君も頑張ってるけど、いわゆる青春映画として見ると、ダニエルさんはちょっと味けないキャラなんだよね。母子家庭で貧しいらしい、と言ってもそこまで困ってはいなさそうだし、もしかしたらサッカーが得意なのかな?というのもあるけどそれは最初だけで、つまり際だつ個性があまりない。

相手役の少女も、鼻っ柱が強くて金持ち、という以外は何もなくて決定打に欠けるキャラ。コブラ会の元カレも金持ちだから「貧富差」という障壁を押し出したかったのだろうけど、カラテとかニッポンとかいうキーワードに惹かれて映画館のドアをくぐった当時の若者にとって、それは正直どうでもいい横糸だったんじゃないの?というか。それだけじゃ物足りないのよねえ、というか。

そもそも、彼らはあんなに色恋には熱心な割に、つまりすっかりそれくらいの年齢にはなってるくせに、小学生じみた集団イジメをひとめもはばからずしちゃうし、それから逃げ回りつついくつもの他人の車を平気でぼこぼこにしちゃうし。コブラ会のライバルたちが極悪な指導者にひたすらイエッサー!な態度を取るのも、ガタイが立派なだけになんだか妙に見えるんだよね。洗脳でもされてる?みたいな。

ミヤギさんって何者?ということで頭がいっぱいになったひとはきっと私だけじゃなかったはず!と確信するから、彼の飄々とした魅力や強さの裏にあるかなしみ、つまり沖縄と日本の関係や戦前のハワイへの移住労働のこと、戦時中の日系人の立場みたいなものが小出しに出てくるとこなんて、ほんと巧みな脚本だなあ、とも思うのだけど。でも、おかげで主人公の影がますます薄まっちゃってもいたというか。いや、だからこそミヤギさんに焦点をあてれば最高にカッコイイ映画なんだけどね!

ということで、今回のリメイクの素晴らしいところは、「オリジナルを丁寧になぞりつつも主人公となる子どもたちの年齢は下げたこと」、そして「師となるひとの神秘性をあえて最小限に抑え、あくまで市井のひととしたこと(オリジナルでは言葉に不自由する異邦人は師のほうだが、今回はそれが逆になっているということも含む)」の2つに尽きるのではないかなあと思う。

だってそのおかげで、今作は文句なしにシャオドレが、子どもたちが主役になってる。どこまでも正統派のビルドゥングスロマンになってる。

相手の女の子もいかにもおませで可愛いし(レディガガで踊る場面なんて、天テレ好きな自分にはたまらない)、単なるお嬢ではなく小さな演奏家として努力もしている悩める少女である、なんて設定だけでも萌えずにはいられない。シャオドレが「ダウンロードしたんだけど」とCDRを渡す場面なんて、彼女のその設定なしには成立しない隠れた名シーンというか、粋な伏線だと思う。

ライバルの男の子がまた、強くはあるけどどこまでも子どもで、だからこそ憎みきれないどころか愛しくてしょうがない。コブラ会のひとたちがそれなりの年だったからこそ納得できなかったことも、今回は年齢を引き下げてあるからすんなり受け入れられる。幼なさゆえの無恥や従順、小さな嫉妬、怒り、恐れ。そしてそれらをコントロールしきれない漠然とした焦燥や不安、暴力。最後の「素直な敬意」も、その幼さゆえちっとも違和感がない。

シャオドレの、子どもならではのお調子者っぷりや自負、ワガママ。おくびょうや恐怖。慣れぬ、言葉も通じない土地での寂しさや所在なさ。それに連なる言葉の通じる優しい少女への思慕。うるさいほどの好奇心や、不思議を不思議のままに受け入れることができる柔軟な想像力も、とてもわかりやすい。わかりやすいから共感もしやすく、いたって自然に応援できる。

なんてったって、彼らは映画の時間軸に従い、明らかに成長していく。シャオドレなんて、まさに心身ともに鍛えられてぐんぐん成長していく。

そのまぶしいほどの成長ぶりに、そしてそれを支えるこの映画のキーワードのひとつ「子どもを決して悪人にはしない」ということに関する徹底ぶりに、私は感動せずにはいられない。

だって最初の時点で、ジャッキーはいじめっ子を指して言い切るんだよ。

「悪いのはあの子どもたちじゃない。あの子たちに間違ったことを教えた大人が悪いんだ」

これはオリジナルでもミヤギさんが同様の台詞を言っているのだけど、前作だとライバルの子たちの設定が設定だけにどうしても嘘くさいというか。いや、いつだって子どもの味方で、ほれぼれする「背中」を惜しげもなく見せ続けてくれているジャッキーが言うからこそ、言葉に魂が宿っているというか。

とにかく、もう、この時点で私は「このひとに、この映画についてく!」と思ったよ。そしてそれに間違いはなかったよ。   

子どもが子どもとして輝き育っていくためには、周囲の大人がまずちゃんとしてなければいけないのだね。でもそれは決して「弱い部分を見せてはいけない」というようなことではなく、「ちゃんと話を聞くこと」だったり、「信頼すること」だったり、「約束を守ること」だったりなんだね。

オリジナルに細部までかなり忠実なのだけど、「箸でとれなかったらハエ叩きを使えばいいんじゃない?」みたいな軽やかなマイナーチェンジもあって、「笑顔が癖になっちゃったんだよ!」みたいな笑いをとりに出てくるところもあって。だから、メッセージ性の高い台詞の連打にもかかわらず、けっこうな長さにもかかわらず、最後までずっと楽しめたよ。おまけに、いろんなことに気付かされもしたよ。

まるで上着を脱いだり着たりしているうちにシャオドレが大事な動きを会得したみたいに、映画を見てドキドキしたりハラハラしたりしているうちに私たちは大事なことを学ぶことができるんだ。すごい。これはすごいことだよ。しかも映画を見ながら飲んでいる水はパチパチはねあがるタイプのものだったりするから、更に霊験あらたかなんじゃないかな、という気もしてきてね。うん。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)アブサン カルヤ[*] movableinferno 死ぬまでシネマ[*] サイモン64[*] ペンクロフ[*] 3819695[*] Myurakz[*]

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