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[コメント] そこのみにて光輝く(2013/日)

函館とはかくも人の営みを写して哀しく美しいか、、。「海炭市叙景」と同じく、そこにある風景はバラックのような廃墟であったり、ゴミ溜めのような決して見たくないものなのに、何故かくも強く心惹かれるのだろうか、、。
セント

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







見ていてずっと「ジョゼと虎と〜」を考えていた。池脇千鶴が主演ということが大きいが、設定が何故か似ているような気がしていた。確かに体は少々太り始めた女の体。そしてこの体がこの映画のキーでもある。どっしりと男たちをいざなってくれる女神のような存在の千夏。彼女は10年経ったジョゼの化身ではないのか。

現代における恐らく最低限に近い生活を余儀なくされている千夏。彼女の生活環境はとても苛酷である。しかし第三者的に今や他人事と思えぬ状況にあることを現代に生きている我々は知っている。

脳梗塞で倒れてはいるものの性欲だけがやたら強くなっている父親。その面倒を見る気力もほとほと喪失してしまった母親。そして訳もなく大人になりきれない仮釈放中の弟。彼女は家族のため、その体一つでカネを稼いでいる。

オーラまで感じるほど強い存在である。しかし池脇千鶴は役柄からは考えられないほど不潔感がない。西洋画に出てきそうな聖母でもある。

そのオーラに導かれるように生きる希望をなくしていた一人の青年が、彼女に救済を委ねるように惹かれはじめる。彼女は一つの光である。ともしびである。ただ一つの希望の光である。人間は希望をなくして生きてゆくことは出来ない。だからいかに過酷な現状に出会っても青年は彼女から離れることはない。

それが愛というものなのかどうか、人間は誰かと歩み、一つ同じ方向を見ているとき、そのときにこそ同一感・至福感を感じるものなのだ。

ラスト、海辺で彼女の肩に寄り添おうとする二人のシルエットはこの世のものとも思えぬぐらい美しい。人間が生きていくことができるかどうかは環境ではない。ただ一つの希望があればそれでいいのだ。

生きていくことの意味を強く問い過ぎる現代人に、ふと自分に、自然に戻ることの大切さを教えてくれる映画でした。ジョゼは現代にも生きていた。

主演の二人は極限まで自分を吐露し俳優としても絶品。二人の代表作となろう。見終わってから印象に強く残った弟役の菅田将暉もベストの演技だ。ほとばしりが出てる。いい俳優が出て来たものだ。そして男としてのどうしようもなささを具現した高橋和也、同じく達観した火野正平もスゴイです。

今のところ今年のベスト3には入ろうかと思います。秀作。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)まりな でん MSRkb けにろん[*] まー[*] 水那岐[*] 寒山拾得[*] ぽんしゅう[*]

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