[コメント] グリーンブック(2018/米)
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本作は本年度アカデミー賞受賞作ですね。ゴールデングローブ賞でも作品賞を受賞済み。注目度はかなり高かった作品です。 雇われ運転手のヴィゴ・モーテンセンと天才ピアニストのマーシャラ・アリが白人と黒人の組み合わせでツアーを回り、絶妙な掛け合いで仲を深めるとともに、差別問題を扱ったロードムービー。 だてに賞を受賞するだけありますね。ど安定の面白さでした。
まず間違いなく欠かせないのが主演二人の関係性ですね。序盤、ヴィゴ演じるトニーは黒人に対する偏見は丸出しの男でした。家で黒人がコップを使おうもんならそのコップをそのままポイッとゴミ箱に捨てるような男です。あだ名はトニー・リップ。口先のうまさから来た呼び名だそうですが、それがきっかけでピアニストのドクと出会うわけですね。 このドクは黒人ミュージシャンであり、時代柄強く差別を受けてしまう人種でありながら、我々が一般的に抱く黒人像とは一見異なる性格を持ち合わせます。とても紳士的であり、真面目。間違ったことは嫌いで、自分の信念を貫く意志の強さがあります。非常に知的でマナーも優れています。トニーとは対照的な人物です。
この二人の掛け合いが最高に心地良いんですよね。フライドチキンのくだりは誰もが好きになること間違いなしの名シーンでしょう。 トニーは初めてドクの演奏を聴いて才能を認め、ドクはトニーが旧友に会って離れてしまうことを恐れても裏切ったりはしない人柄を認め、彼らは少しずつ絆を深めていきます。
本作はそれだけではなく、そこに人種差別の問題がテーマにあります。 黒人だというだけでトイレは分けられたり、スーツの試着は認められなかったり、ディナーはダメ、外出はダメ。理不尽な偏見が当たり前の感覚になっているのが差別意識の恐ろしいところなんでしょうね。
その都度トニーが得意の話術で切り抜けますが、本作においてのメッセージは「自分らしさ」ってことなんだろうなと思います。 ドクが一度激昂して土砂降りの中を車から飛び出すシーンがあります。彼は育ちから差別という差別を受けていたわけではなく、黒人のソングも知らなければフライドチキンも食べたことがありません。それでも黒人として差別を受けます。しかし、だからといって自分を曲げず、自分らしさを貫きます。 自分が黒人だという肩書きであるから黒人らしくすべきであるわけではありません。一人の人間の尊厳として、自分がどうしたいかというのは守られるべき権利ですね。それを象徴したレストランのシーンは素晴らしく、またそのドクの思いを理解したトニーの理解者としての深まりも感じられるシーンでした。
印象的なのは警察に追われる二つのシーンですね。同じ警察でも片や差別的に扱われ、それを予感させながらも裏切る二度目の警察官のシーンは、ある種我々の警察に対する先入観を裏切られる場面でもあります。警察だからどうせ、ではなく、警察の中にも良い人はいる。そういう先入観ってのが差別的な偏見を生むんだろうなと。黒人だの何だのという偏見でなく、その人を人として見ることの大切さを伝えているように思えました。
無駄なシーンなど一切なく、完璧な脚本でした。アカデミーを受賞したからではなく、獲るべくして獲ったと納得いくほど心地よい名作だったと思います。
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