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[コメント] 男はつらいよ(1969/日)

上澄みしか知らない世代が海底を垣間見る恐怖
kiona

 自分の世代になると、初体験が初作というのはありえない偶然だろう。俺なんか劇場初鑑賞が、“ゴクミ”だ。そういう世代にとっては、寅さん=優しい叔父さんという見方が定着している。

 ところで俺の御袋にはフーテンの兄貴がいた。現実のトラさんは時代の波に容赦なく飲み込まれ、バブル崩壊時にはにっちもさっちもいかなくなり、俺の親父から云十万の借金をしたまま音信不通、その次に連絡が来たのは借金返済の連絡ではなく、野垂れ死に寸前の報だった。詳しい顛末は、悲惨すぎてとても話す気になれない。

 一つ言えるのは、俺にとってはこの『男はつらいよ』シリーズ、子供の頃からずっとそうなんだけど、“現実もこうだったらどんなにいいだろう?”のファンタジーだったということ。

 ところがある時、この第一作に出会って驚いた。この寅さんを観るのは、怖え。冗談じゃなく、怖え。そこにいたのはファンタスティックな優しい叔父さんではなく、現実のフーテンの悲哀を纏ったリアルな渡世人の姿だったからだ。

 ファンタスティックな叔父さんが現実の影を引いているのを認めるのには戸惑いもあった。でも自分も大人と言える年齢になって冷静になって考えてみると、寅さんの本質というのは、手を振り続けた寅さんと、その手を降ろした瞬間に誰も寄せ付けない表情に戻る渥美清との界面にあったのだと気付く。だとしたら認めないわけにはいかない。野垂れ死んだ自分の叔父貴の記憶が消えないのと一緒だ。

 白状するが、俺はシリーズ全てにコメントを書けるほどかっちり観てきたわけではない。観たのは大半がテレビだが、それでも思う。大好きです、寅さんも、渥美清も。今までも、これからも。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (11 人)jollyjoker ゆーこ and One thing[*] peacefullife[*] ナム太郎[*] Linus tredair[*] ニュー人生ゲーム[*] ina かるめら ALPACA ジョー・チップ

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