[コメント] タクシードライバー(1976/米)
この独白に強烈な共感を抱いてしまう俺は危険人物か単なるダメ男か。だが、少なくとも男(特にダメ男)なら誰でも一度は抱いた事があるんじゃないだろうか、「何かきっかけさえあれば俺は英雄になれる」「俺がこの腐った世界を浄化してやる」という高慢な思い上がり。そして、それと表裏に存在する、何時までも訪れない「きっかけ」に焦る気持ち。年月が過ぎれば過ぎるほど焦りが募り、変わらぬ世界への怒りを激しく燃やす。その気持ちをまとまらない言葉で懸命に打ち明けても誰も分かってくれない。焦りと怒りだけがどうしようもなくエスカレートしていく・・・。18歳で初めて見たが、その時点ではその「思い上がり」も「焦り」も未だに自分の中で息衝いている。そういう意味では、なかなか相応しいと思われる年齢で見れたと思う。とても印象深く、心に染み入る映画だった。
ところで、DVDを購入した際に紹介文を見て非常に気になったのですが、この映画のあらすじで良く見る「帰還兵であるトラビス」という書かれ方。この事については監督マーティン・スコセッシだったか脚本ポール・シュレイダーだったかが真っ向から否定したと聞いたし、映画中でそう解説されるシーンもないし、個人的にもトラビスを特にベトナム帰還兵とは思わなかった。「ベトナム戦争後の暗いアメリカ社会を感じさせる」というような批評が当時から多かったのが「帰還兵トラビス」問題の背景にあるのだろうが、この映画に描かれる社会が「ベトナム戦争」固有のものに包まれているから暗いのかというと、少なくとも自分の回答はNO。というより、この映画に映し出される社会が特別に暗いとすら感じなかった。この映画の空気はベトナム戦争という限定的なものではなく、現代という漠然としたものに因っている気がする。描かれているのは「ベトナム帰還兵の孤独・狂気」より「大都市の孤独・狂気」だろう。だからベトナム戦争の傷跡などという安易な片付けには賛同出来ないし、「帰還兵トラビス」という表現もせめて公式なものでは取り下げて欲しい限りだ。ただ、その「帰還兵トラビス」を否定する上で唯一気に掛かるのは腕立てをするトラビスの背中に日常生活では考えがたい、戦争を思わせる傷跡が見える事。製作者内で意見の相違があったのだろうか?傷について自体単なる考えすぎかもしれないが・・・。
それと、余談ですが、あの有名な鏡に向かってのセリフ“You talkin’ to me?”は元の脚本には「鏡に向かって話す」としか書かれておらず、ロバート・デ・ニーロの即興らしいです、素晴らしい・・・。
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