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[コメント] サンダカン八番娼館 望郷(1974/日)

不覚にも泣いてしまった。
ぱーこ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







熊井啓演出は平凡。悪しき日本映画の手法を踏襲している。tomwaits氏ご指摘の通り。これ見よがしの不自然なあばら屋。扇情的な音楽の付け方が下品。ステレオタイプの貧乏物語、女衒の描写。所詮「見せ物」の域をでない。

原作は文藝春秋がノンフィクション大賞を設定、その初期の受賞作だったのではないだろうか。山崎朋子衝撃のデビュー作だと思う。私は掲載された文春の紙面で読んだ記憶がある。内容はまったく憶えていなかった。

栗原小巻にハイライトを吸うフィールドワークの研究者をやらせるのはミスキャスト、というか栗原小巻に芸がない、というか。高橋洋子熱演なれど、青い! ヌードショットも衝撃はない。

それというのも田中絹代がすごすぎるからだ。不思議な存在感である。田中絹代のキャラ(そんなものがあるのかどうか不明だが、多くの俳優は自分の持ちキャラで勝負している)はまったく印象にない。かといって「からゆき・おさきさん」が前面に出ているのでもない。自分の中に残っているのは、透明なそれでいて打ち消しがたい存在感である。時代に翻弄され辛苦をなめ尽くした女の一生、といったあざとい演技ではない。田中絹代を通して人間の尊厳に触れた、とでも言うべきか。役者を通して確かな人間が立ち現れた、とでもいうか。自分を消して世界の真実の通路になるのが役者の芸と言えるのかも知れない。そんなことを考えた。

「人にはそれぞれの事情がある。お前が言い出さないことをなんで他人の私が聞けようか」研究者栗原小巻が身分を明かす別れのシーン、なんでもない当たり前のセリフだが不覚にも私は泣いた。ここには寂しい人間同士の最良の交流がある。この後栗原小巻号泣、翌日白い封筒に金を差し出す場面になる。「もし東京に帰って替わりがあるのならお前が使っていたタオルをくれないか。使うたびにお前を思い出せる」こう言って田中絹代は声を上げて泣きくずれる。みみっちい要望だが、これも真情あふるるセリフである。

阿佐ヶ谷ラピュタは補助席の出る満席。ヨーダばりのばあさまが多かった。 田中絹代の伝記を執筆した直木賞作家先生のトークショー付きだった。仕事のためそれは断念した。私の一つ置いて左に座った作家先生は一見普通のおっさんだった。

感心しない映画の作りだが、田中絹代で☆4つ。

(評価:★4)

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