[コメント] 祭りの準備(1975/日)
生ぬるい汗の香りに満ち満ちた、故郷という名の蟻地獄。親さえもがいつか脚に齧りつこうと狙いつづけている。執拗にリフレインされるメロディラインがその陰惨さに拍車をかける。それは永遠に続く祭祀的コミュニティの象徴だ。
この湿気を含んだコミュニティは、エロスとタナトスの偏在によって逃げられぬ迷路を形づくっている。ヒロポン漬けの女、マルキスト気取りの女、それぞれに立場は違えど主人公の脚を絡めとろうとしていることでは同じだ。そして母さえも、夢のなかでは彼にセックスをせがんでくる。永久に逃げられない男たちは、死ぬことでしか出て行くことのできない温床に埋没してゆく。
古い流行り歌がある。 「東京へ行こうよ、行けば行ったで何とかなるさ」 本当に何とかなってしまうものなのだ。そこに新しい地獄が待っていようとも、ともに逃げ出すための脚を噛みあって果ててゆくよりはましだ。
主人公は脱出に成功した。あとは彼が、あの生暖かい地獄を振り返りさえしなければいいのだ。
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