コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] マッドマックス2(1981/豪)

家族の喪失と再生。
たわば

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







一作目で妻子を亡くしたマックスは、「2」で愛車インターセプターと愛犬を連れて登場する。これがこの映画の重要なポイントである。彼にとって愛車は住まいであり、パートナーともいえる。そして愛犬は家族の一員であり子供でもある。つまり愛車と愛犬は、失った妻子にも通じる存在であり、マックスにとっては「疑似家族」でもあったのだ。

マックスはそんな「家族」とともに荒野をさすらっていた。しかしジャイロキャプテンという「人」との出会いが、マックスを新たな運命に導く。彼は石油を精製する共同体と、それを奪おうとする暴走族との戦いの渦中に身を置くことになる。だが、彼にはそんな戦いに興味はなく、目的はあくまでガソリンの調達だけであった。その証拠に彼は仕事が終ると、共同体の人々を救おうともせず出ていってしまう。しかも彼は、自分の息子を思わせる年頃の子供の同行をも拒絶する。つまり彼は「人」を受け入れる事が出来ない状態なのだ。そんな彼が、なぜトラックの運転を引き受ける気になったのだろうか。

マックスはインターセプターで村から出ようとしたところで暴走族に襲われ重傷を負う。トラックの運転を引き受けたのは、その直後なので、その仕返しと考えるのが妥当だが、それだけでは子供のケンカのようで理由としては弱い。ここで前述の「家族」というキーワードを思い返してほしい。マックスにとって、愛車と愛犬を失うということは、妻と子を失うことの追体験を意味していたとは考えられないだろうか。つまり愛車と愛犬という「疑似家族」を失うことで、マックスは家族を殺された時の感情が甦ったのだ。マックスはケガで片目が見えない状態になるが、それは彼が一つの事しか目に映らないことの比喩であり、マックスの目に映るのは、もはや復讐しかなかったのである。マックスはこうして「マッドマックス」に戻り、第二の復讐の幕が始まるのだった。これ以前のマックスはただの「マックス」でしかなく、「マッド」ではなかった彼は暴走族に敗北した。だが復讐という灯が灯ることによって目覚めた「マッドマックス」というモンスターは、暴走族をほとんど一人でけ散らしてしまうほどの凄まじい破壊力を持っていた。しかしその根底には、失った家族に対する深い愛情があり、家族に対する渇望感や寂寥感こそが彼を突き動かしていた、と見るべきだろう。絶望の中で、彼が唯一生きる意味を見出せること、それは復讐でしかなく、それが愛する家族への弔いでもあるのだ。なんともやるせない映画である。

そんなマックスであるが、今回は一人ではない。共同体の人々が仲間となり、新たな「家族」が誕生する。マックスは車と犬という「疑似家族」を失うことで、「人」との共同体という新たな「家族」を持つ。彼らは一つの目的のために結ばれた仲間であり、一時的とはいえマックスはそんな「家族」の一員となったのだ。やがて戦いが始まり、次々と倒れてゆく仲間たち。そんな状態の中で、ついにマックスは今まで誰も乗せてこなかった助手席に、初めて「人」を迎え入れる。車という閉鎖された空間は彼の心を表しており、その中に入ることができたのは、彼の妻子を除いてはこの子供と、前半におけるジャイロキャプテンだけである。そして戦いで生き残るのもこの二人。妻子を守ることができなかった彼の心は、新しいパートナーと子供という二人の「家族」を守ることで少しは救われたのではないだろうか。そう考えると、「誰かを救うことで自分自身が救われる」「自分のしたことは自分に返ってくる」という、そんな因果律が見えてくる。前作では絶望しか残らなかったが、今回は僅かながらの希望を残してマックスの復讐は幕を閉じるのである。

ラストシーン、夕日に包まれた「光」に向かって旅立ってゆく村人たちと、彼らを見送るように「闇」の中に佇むマックスとの対比が美しくも悲しい。いくら復讐を遂げようとも愛する者は帰ってこない・・・そんな苦い虚しさだけが後に残る名ラストシーンだ。カーアクション映画としても最高峰であり、いまだこの映画を越える作品にお目にかかった記憶がなく、前作とともに私の映画人生のベスト10に常に居続けている映画である。(2007.6.24)

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (10 人)すやすや[*] DSCH[*] YO--CHAN 赤い戦車 アブサン 山ちゃん[*] stag-B[*] ペンクロフ[*] サイモン64[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。