[コメント] 顔(1999/日)
今まで日本に限らず映画の世界で正しく描かれる事の滅多になかった、不細工な女の冒険物語。
映画で主役か準主役級として登場する不細工女は大抵、心が美しい。優しい。それは何かい? 人間なにか一つぐらいは取り柄があるって意味か? 冗談じゃない、お前はブスだ不細工だって生まれた頃からケナされ通しでそうそう心の真っ直ぐな人間に育つかってんだ。
ある意味、同じ事が美人にも言える。子供の頃からお前は可愛い、綺麗だと言われ続けて真の自分の価値を顔以外に見い出せなくて、20代半ばを過ぎてからどうも自分の存在価値に今ひとつ自信の無さそうな人もいる。美人だろうが不細工だろうが女の価値を顔だけに見いだすならば短い賞味期限との闘いなんだろう。
で、この主人公は案の定オバサンになる頃にはすっかり対人恐怖症になっている。高校を出るまで学校でずっとイジメられてきたんだろう。もちろん不細工な女が必ずそういう人生を歩むって訳じゃない。親や周りの大人が教えてやればいい。結局生きていくには知性が大事なんだと。人間それしか自分と常にある持ち物は無いんだって。知性があればユーモアが生まれる。人生でブチ当たる謎を自分の頭で解明する努力ができる。強くなれる。強いから優しくなれる。本当の自分自身を理解できる。自分を愛せる。その輝きが顔に出る。それが唯一無二の自分の顔になる。不細工だろうが美人だろうが知性がなきゃ無個性なツマンない顔してんだよ!
で、この主人公は不細工な女に生まれて、哀しいかな不細工な女としてしか生きてきてない。妹が美人なばっかりに、どうしても周囲の目がその顔の対照にばかり向いてきた結果なんだろう。彼女の人生初めての冒険はゼロどころかマイナスからの出発だ。ある時点までの彼女は死にながら生きるゾンビのようだ。
ある時点というのは、まずラブホテルの屋上で初めて「イイ顔」して空を見上げるシーン。それから自殺が失敗して急に怯え出すシーン。自分で入り込んだ暗い空き部屋で、生まれた頃から死んだように生きてきた彼女が決定的に死の世界に踏み出す。それが何とも滑稽な形で失敗した時、彼女は死と生の真ん中にドスンと落ちる。するとその滑稽さで現実に戻り、今自分が限りなく近づいていた死の世界に急に怯え出す。シャッターの隙間から漏れる光を求めてここから出してくれと叫ぶ。初めて自分から生きたいと強く願う。そして生きた人間に生まれて初めて感謝を込めて抱きつく。
人間達と関わって、こんな自分と付き合って生きていく。そう決意してしまったら後は無様にでも生き抜くだけ。これが彼女がやっとゼロの地点まで到達した場面じゃないだろうか。
脚本の出来と監督の力量、主演を含めた役者たちの達者さ(牧瀬里穂を除く)については今さら長々と語らないけど、この映画は海外に持っていっても充分通用すると思っている。
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