[コメント] 息子の部屋(2001/仏=伊)
これが演技だとは信じられない。本当の家族が本当の感情に揺さぶられているように見える。役者の演じる芝居というものの、シンプルな力と美しさを感じさせる。
観客を飽きさせずに坦々と日常のエピソードを綴るには技術がいる。家族4人が狭いマイカーの中で同じ歌を歌うシーンを挿入するなんて、最悪である。いつまでこれに付き合わされるのか、と正直イライラしてくる。だが、そこで話が転換する。このタイミングの計り方が実に上手い。振り返れば、事件を暗示する“不穏”がきちんと差し挟まれている。差し挟み方がまた効果的だ。
すると今度は、繰り返しの日常を意味する事務的な作業、機械的な音響が、個別具体的な悲しみを増長する要因になる。神の言葉でさえ、無関係な第三者に語られれば、表面的な響きしか持たない。引き裂かれ、正常なバランスを失った心は、この先癒されることがあるとは思われない。
“Show must go on.”という言葉がある。“Life goes on.”という言葉もある。ショーは続けなければいけない。でないと続かないから。だが人生は続く。突然終わりを迎えることもあるし、自分で終わらせることも出来るが、人生は続く。ラスト、家族3人がフランスとの国境前の海岸で佇むシーンは、バラバラで、それぞれに悲しみを抱え、頼りなげに見えた。この後すぐに悲しみを克服するということにはならないだろう。ふとしたきっかけで涙ぐむことも当分なくならないだろう。悲しみは続く。だが人生も続くだろう。
80/100(02/06/16見)
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