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[コメント] チョコレート(2001/米)

愛の代用品がチョコレートなんじゃない。慰みのチョコレートみたいな愛なのさ。(なのさ?)
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







[ハンクについて]

老人施設の女所長から”You must love him very much.”と言われて、”No, I don't. But he's my father. So, there it is.”と淡白に言い返すハンク(ビリー・ボブ・ソーントン)には別の意味で衝撃を受けたが、父親を畏れて言いたいことも言えない息子(が、その息子=ソニーの死により父の呪縛から免れた)として描かれているとは思わなかった。

例えば彼は、ガスステーションのオーナーになったことを父親(ピーター・ボイル)に報告するとき、実に嬉しそうに報告していた。当然父親もこの報告を喜んでくれるものと考えているように見えた。少なくともこれは、父へのあてつけとして看守という職業を辞めた訳ではないことを意味していよう。

職場でもリーダー格として描かれていた彼は、むしろ自分で自分の人生をコントロールできている(と信じている)大人の男として、父へは恭順を示すことが息子の務めであるくらいに考えている人物ではなかったか。爺様(彼の父)が「ウチの庭を黒人が通っている!」と声を張り上げた時、はじめ彼は聞こえない振りをしていた。「わしの言った言葉が聞こえんのか!」と再度言われて、ようやく身を乗り出し庭を覗いたハンクの様子は、いかにもしぶしぶという感じだった。

もちろん、その直後ライフルを引っ下げて黒人の子らをどやしに行くわけだから、ハンク自身に爺様から受け継いだ人種差別意識があることは間違いない。だが、現役として世の中に身を置くハンクは、社会を引退して久しい爺様と比べれば、(世間のレベルを反映して)そんな差別意識の程度も低いものとして描かれていたように思った。

例えば、死刑執行後、しくじった息子(ソニー=ヒース・レジャー)をなじるシーンで、止めに入った部下の黒人看守に触られた彼は、「俺の身体に触るんじゃねえ!」と激昂するのだが、「上司の身体に断りなく触るな」と言い直す。この世にそんな理屈はない。が、言ってはいけないことを言ってしまったことに気づき、自分を恥じたように(私には)見えたのだ。後のシーンで、レティシア(ハル・ベリー)に侮辱的な言葉を吐きながらそれに気づかず、なぜ彼女が突然逃げ出したのか分からずきょとんとしていた爺様とはだいぶ違う。

私の見るハンクは、本当は自分の人生のコントロールなどできていないことを知っていた男だ。彼にとってチョコレート・アイスクリームは(日本でのキャッチ・コピー「たかが愛の、代用品」とは違って)、人生の不幸を埋める慰みの為のものである。彼が息子を嫌っていたのは、息子の中にそんな不完全な自分を見ていたからである。だから、彼が息子に向って投げ付けた痛烈な言葉”I hate you. Always have. ”は、彼自身にも向けられた言葉だ(I’ve always hated myself)。その直後、息子は”While I've always loved you. ”と言って自分の胸を撃ち抜くのだから、ああ、これを悲劇と言わずなんと言おう。(ここはほんとに重要なシーンだ。これは予告編で見せちゃいかんところだよ・・・。コラ!)

しかし、ここで矛盾にぶち当たる(つまり私の解釈が筋違いな可能性も高い)。自分の息子に憎しみの言葉を吐いたことに対し呵責を覚える男が、実の父親を愛しているかと聞かれて”No,I don’t.”とあっさり答えるものかしら。アメリカ映画ではレイシストはどんな手ひどい扱いを受けても構わないことになっているのかもしれないが・・・? この爺様も哀しい男なんだけどな・・・(もう救いようはないけれど)。

[レティシアについて]

いい名前だ。今まで女の子を持ったらクラウディアと名付けようと思っていたが、これからはレティシアにしよう(ハイ)。

自分の付き合う男が、死刑囚だった亭主の最期を看取った看守だったと知る。このこと自体は、彼も単に職務を遂行したにすぎないのであるから、それほど問題ではない(かしら?)。そうと知って彼女に近づいたわけでもない。だが、もっと早い段階で知るか、あるいはもっと後で二人の関係が落ち着いてから知るのならまだしも、あの順番で知ったのでは、彼女の心はズタズタに引き裂かれたことだろう。こればっかりはハンクの責に帰すわけにもいかない。映画の設定とはいえ、むごい仕打ちである。私は観ながら、ここでもう一悶着起きるのかな、起きたら嫌だな、と思っていたので、彼女が自分の中で収めたのは、それよりはマシな終わり方だったと言える。たぶん、この男なら、亭主の最後の瞬間に優しく立ち会ってくれたに違いないと信じることができたのだ。ただ、何も感じなくなってしまった心を表わす曖昧な表情を浮かべてハル・ベリーは名演技だったが、も少し心情を吐露してくれてもよかったのにな。

[二人について]

ハンクは人種差別者のままで、息子の死を顧みない。レティシアも心の葛藤を抱え込んで表に出さない。「俺たちはうまく行く」とのハンクの言葉とは裏腹に、(皆さんのおっしゃる通り)二人の行く末には暗雲が立ち込めているだろう。

[で?]

なぜ★4つも与えているのよと?そいつは私の涙腺に聞いてほしい。

***

「チョコレート」という邦題のセンスはいいんだが、「たかが愛の、代用品」というコピーが間違っているのだと思う。邦題を酷いとするのは、コピーを真に受けてしまっているからではないかと思うんだが、どう?

80/100(03/02/18記)

(評価:★4)

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