コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 阿修羅のごとく(2003/日)

実を云うと向田は昭和期最大の脚本家の一人だと思っている。中でも「阿修羅のごとく」と「あ・うん」は畢竟の傑作。基本的に映像作品は出来上がった画面と音が勝負であり、脚本なんてどうでもよい、読んでも仕方が無いと思っているのだが、ごく例外的に殆ど全ての脚本を読んだ作家が何人かいて、その一人が向田邦子だ。
ゑぎ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 私を含めてある世代層にとっては本作と和田勉演出作を比較するな、という方が無理だし、積極的に比較して楽しめば良いと思う。

 ま、結論から云うとやっぱりどうやってもあの傑作テレビドラマを超えることはできなかったのだが、それは私にとっては、深津絵里深田恭子はもとより、ある意味本作の最大の見せ場と云っていい大竹しのぶ桃井かおりの対決シーンにおいてさえ、かつて加藤治子三条美紀が見せた気品と魔性に遠く及ばないと感じたことが大きい。また、多くの方が思ったであろうトルコ軍楽隊の音楽の欠落感は「これを使わない気概も判るが、やせ我慢をせずに堂々と使えば良いではないか」と思わせるレベルの欠落感なのだ。とりもなおさず「阿修羅」とはトルコ軍楽曲なのだ。私は奈良の興福寺の阿修羅像を再三見ているが、いつも頭の中をこの音楽で一杯にして見る。

 しかし、比較して見劣りする部分を上げ出せばキリが無いとは云え、それでも森田芳光が予想以上に頑張ったのも確かだ。冒頭から実にきめ細かな画面造型だ。母ふじのキャスティングを比較すれば誰もが本作の八千草薫に軍配を上げるだろう。好みの分れるところかもしれないが、巻子についても私は黒木瞳の方が良いように思えた。夫が押し倒そうとする場面の演出でより映えるのは黒木の方だろう。(清楚な八千草だからこそのドキドキってのもあったけど、違和感の方が大きかった。ついでに云えば『岸辺のアルバム』も..)という訳で、本作も決して悪い出来ではないし、結果的に原典を超えられなかったとしても、はなから諦めの境地で作られた訳ではなく、超えることに挑戦していると感じることが出来る。大真面目に昭和のルックを再構築し、尚且つ原典を超えようとする演出は無謀とは云え感動的だ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (10 人)disjunctive[*] Orpheus chokobo[*] ペペロンチーノ[*] わっこ[*] sawa:38[*] ぽんしゅう[*] 直人[*] ナム太郎[*] きわ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。