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[コメント] ハルク(2003/米)

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ペンクロフ

この映画で最も重要な、ハルクとジェニファー・コネリーの初対面の場面があまりにもグダグダである。恋人をハルク犬から救うために駆けつけたはずなのに、行ってみたらハルク犬はまだ来ていない。ハルクはジェニファーと出会ってホンワカムード。もうねえ、見ちゃいられねえんですよ。

断じて、ここは断じてもっと遅れて駆けつけるべきなのだ。ハルク犬に囲まれてジェニファーピンチ、車に閉じこもって絶体絶命、そのとき突然現れた巨大な黒い影。あんなに恐ろしかったハルク犬がキャインキャイン、巨大な「何か」によって次々と血祭りにされていく。ハルク犬以上の新たな脅威におびえ、悲鳴を上げるジェニファー。そこへ軍隊がやってきてドンドンパチパチ。無数の銃弾を受け、血煙あげて逃げ去るハルク。危機を脱して安堵のジェニファー、しかしあの巨大な後ろ姿にはかつて愛したあの人の面影が… なんて展開ならオレも燃えるんだよ!

この映画は本当ならば、誰もハルクを理解せず、怪物におびえ、忌み嫌い、殺そうとするその中でかろうじてただひとりジェニファー・コネリーだけが彼を理解し、愛し、守ろうとするという構造でなければならなかったはずだ。ところがなんですかこれは。この映画では誰もがハルクを理解しすぎている。軍事に利用しようだの隔離しようだのといった思惑はあれど、基本的にハルクの成り立ち、存在する意味や事情をみんながわかっているのだ。一番わかってないのが主人公とその恋人である。これじゃあダメだ。ハルク変身の引き金がなぜ「怒り」の感情であるか、その理由をアン・リーは全然考えなかったのだろうか。ハルクの怒りの根源には誰からも理解されない悲しみ、問答無用で忌み嫌われる怪物であるが故の苦悩があったはずだ。その前提を崩してしまえば、ハルクの怒りには誰も感情移入できず、映画は観客にとって他人事でしかなくなる。主人公の怒りに感情移入できてはじめて、ハルクの大暴れに爽快感が生まれるのだ。ノミやバッタじゃあるまいし、ビヨーンとジャンプしてりゃスカッとするほど観客は単純ではないのだ。オレには、アン・リーがこのジャンルとこのジャンルの観客をあまりにも軽く考えていたとしか思えない。どーれバカバカしいヒーローまんがにオレさま得意の人間ドラマをちょいとふりかけりゃお前ら感動するんだろ、なんて思っていたのだろう。大間違いである。『フランケンシュタイン対地底怪獣』のDVD貸してやるから、一から勉強してこい!

(評価:★2)

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