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[コメント] 華氏911(2004/米)

あんまり皆誉めるんで書きにくくてしょうがない。シネスケは民主党員だらけか?
torinoshield

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







彼の第一目的はブッシュの落選だ(これは当たり前)。わかりやすく説明するので「んなもん当たり前だ」って人は読み飛ばしてくれても結構。

アメリカ大統領は選挙人と呼ばれる全米の有力者が選ぶ(国民が選ぶわけではない)。大統領候補は全州に自分に投票してくれる「選挙人」を立てておく。この人達は形式上のもので投票権があったら間違いなく指名してくれた大統領に投票する。例えばある州の一般投票で民主党が一票でも多く投票を貰うと選挙人は全員民主の人が占める。各州の選挙人の比率は大体人口の比率で決まってるから大きい州での投票は僅差になればなるほど重大な問題になる。

ちょっと以下の州別選挙人の数を参照。

カリフォルニア:55

テキサス:34

ニューヨーク:31

フロリダ:27

・・・

ハワイ:4

アラスカ:3

上記のように大きな州を全部自分の選挙人で占める事は絶対なのだな。地元が大きい州の大統領は自然と有利だ(ブッシュはテキサス)。映画で大騒ぎしていたのはフロリダの一般投票がほぼ真っ二つだったのでちょっとした事でこの27票が一気にゴアに傾く可能性があったという事なのだ。そうなったらハワイだ、アラスカだ、アイダホだ、などといった弱小州の選挙人など吹っ飛ぶ。だって270票取れば勝ちなのにその1/10ですよ?

監督は不正があったせいでゴアが大統領になり損なったと思っている。そしてもしゴアがなっていたらイラクに戦争など仕掛けなかっただろう、と(それはそれで深刻な問題に直面する 後述)。

そこで監督が立てた今回の作戦。

1.不正があって民意がひっくり返されたフロリダよ、卑怯なブッシュに投票するな!これが一つ。(前回は数百票差の世界だ。今回も互角な場合映画で訴えるには十分な価値がある)

2.テキサスはブッシュの地元だから捨てる。(ここは幾ら吠えようが阪神ファンを巨人ファンにしようと試みるようなもんである。無駄)

3.カリフォルニア、ニューヨークは都会(&アフリカ、アジア南米移民が多い)なので民主が楽勝。こういう連中はほっといてもケリーに入れる。だからこいつらも無視。

簡単に言えば各州の投票傾向は都会=アンチブッシュ、田舎=ブッシュなのだ。前回は大きい州で殆ど負けたにもかかわらず中小州はほぼ完全勝利なブッシュ。監督の意図する作戦は明確だ。中部の田舎者をなんとかして反ブッシュにしようと言うもの。その為には政治に強い連中からボロかすに言われる様な失笑物の批判をしようと「ターゲット」の為には素人洗脳批判を繰り返す。

そう。アメリカ大統領選が毎回毎回ばかばかしい相手の中傷合戦になるのは洗脳されやすい連中をいかにして自陣に入れ込むか、の結果なのだ。お涙頂戴な内容は必然だ。連中は良く言えば「純粋」。ボウリング〜風に言えば「単なる騙されやすい中部」の票が争点となる。

前回の「ボウリング〜」では根っから中部白人嫌いを露にしていた監督が急に連中に媚びた態度を取り始めたのはこういう理由なのだ。この映画は我々のような選挙権のない外国人や最初からアンチブッシュな連中ははなっから相手にしていない。外野に見せる理由は単なる金儲けと言ってもいいだろう。投票日の「前前日辺り」にこの映画の売上金を全額今回の戦争の犠牲者に、という作戦も奴なら十分ありうる(自分はブッシュとは違い金の亡者ではないと言う二重のうまみがある)。

さて、あくまでこの映画のオチは大統領選である。今回のフロリダがどうなるか。中西部の田舎のいくつかがどう転がるか。「それだけの為に作られた映画」と言っても差し支えは無い。その価値はあるだろうし。

と、彼のやり方をざっと説明した。つまり他の方も言っている様にこの映画は「事の本質を論じる気などはなからゼロ」だと言う事だ。少しでも中部の白人有権者を寝返させ、どこかの州で僅差で「勝て」ば、そしてそれが270票の何票かに加算されるのを彼はもくろんでいるのだ。

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ただ彼のやり方を肯定的に捉えられてる人が多いようだがそれは「自分の政治嗜好と似ているから」という理由だと思う。例えばこの映画と監督がどれだけ本気だったとしても「日本を叩き近隣アジアを賛美し、しかも本質的に間違っている」映画だったら評価は正反対になったはずだ。何より「間違っている」事に激しい怒りを感じるはずなのだ。そこのところをアメリカの保守層の立場になって考えて欲しい。

政治は退屈すぎて興味のない人が脱落しようとも真剣に本質を議論するべきもの。マイケル・ムーアのやり方は「政治のあり方の基本中の基本」で強い反発を感じるのだな。

世界はこういった面白トークで人を魅了し、仮想敵を作り出し、一番重要な政治の議論をはぐらかし、政治に大して思い入れの無い中立の人を利用し自分の政治理念を実現しようとする人間が沢山いる。それはブッシュにも言えることだが監督にもそっくり言えることだ。この間のアジアカップ、中国の日本叩きはそういった人達がコツコツと積み上げた結果だ。それが「やり方としては最も効率的で利口」だとしても。

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ちょっと映画と離れてしまうがおまけ。以前パキスタン、北朝鮮、イラクの技術供与計画があった。北朝鮮は弾道ミサイル(もうちょっとでアメリカまでいける)、パキスタンは核実験(成功)、イラクは化学兵器(クルド人で実験済み)。この3国の技術を合わせて自分達に敵対する連中(パキスタン←→インド、イラク←→イランとイスラエル、北←→韓国、日本、アメリカ)に脅しをかけ、掛かった経費はテロリストに売るという一石二鳥計画があった。結局パキスタンはアメリカの身内にしたものの北は自力で核開発しようとするしイラクには既に設計図は渡ってしまったんじゃないか、と噂された。

ブッシュが脅威に感じたのは実はイラクでも北でもイランでもない。彼ら3国はそれを使用したが最後間違いなく敗れる。問題は金さえあれば買う「お金持ち過激派」である。杞憂していたところに911だ。ブッシュ政権は小躍りしたはずである。「たかだかあの程度で済んだ」&「イラクを潰す口実を貰った」ことに。

つまりブッシュ政権が唐突にイラクに戦争を仕掛けた理由は「適当に思いついた言い掛かり」なのだ。実際イラクがアメリカの脅威なわけはない。カダフィに対して行われたミサイル攻撃で(関連性は無いとカダフィは主張していたのに)80年代のテロが急に尻すぼみになった実例がイラク戦争の手本だろう。彼らは「過激国家からテロリストへの兵器売却」を恐れているのだ。これが日本も他人事ではない主な理由だ。マイケル・ムーアの「敵なんぞどこにもいない」論は暴論としか言いようが無い。テロリストは何でもやる。子供でも平気で人質にする。彼らの真剣度を甘く見てはいけない。

(評価:★1)

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