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[コメント] 春夏秋冬そして春(2003/独=韓国)

キム・ギドクは随分と幅広い要素を包括した作品を完成させたものだ。仏教における悟りの境地に達するという話は究極的な人生ドラマだが、映画監督としてもギドクは極致に来ているのかもしれない。
Keita

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 キム・ギドクは『魚と寝る女』でも水上の小屋を舞台にしていたが、この作品においての水上の寺の方がより設定を生かすことに成功し、季節ごとの自然描写を追求した映像美もより洗練されている。

 季節ごとに区切られた構成だが、春、夏、秋、冬、二度目の春を描くにおいて、1年と少しの間を描くのではなく、季節それぞれにその季節が持つ特性を見出し、そこに象徴的な意味を持たせることで、それぞれ人生の転換点を描いていくという視点も面白い。特に夏のパートでは、暑さや瑞々しさが青年期の恋や欲望という側面に良く見合っていた。

 加えて、儒教の国である韓国の作品ながら、仏教の要素を作品に反映しているのも面白い。物語自体がひとりの男がさまざまな苦難を乗り越えて、悟りの境地に達する話だ。秋のパートでは、欲望が殺意に変わった状態を鎮めるために、般若心経が説く教えと重ね合わせることで、般若心経を彫っていくという行為に説得力が持たせられる。季節を通して人生を描く中では、輪廻転生の概念を取り入れることで、より深みが持たせられた。

 それにしても、キム・ギドクは随分と幅広い要素を包括した作品を完成させたものだ。季節の美や仏教を題材にして、悟りの境地に達するという究極的な人生ドラマを作り上げた。しかも水へのこだわりや暴力性といった以前からのテーマや、台詞に依存しないスタイルなど、個性はそのままにだ。映像作家としてかなりの位置にまで登りつめているようにすら思える。

 また、スパルタのキツネ氏がレヴューに書かれているように、僕も三島由紀夫が小説で描いてきた素材と共通性を感じます。偶然にも僕はこの映画を観たとき、三島の「暁の寺 豊饒の海(三)」を読んでいる最中だったこともあり、輪廻転生の観点で共通する部分を感じざるを得なかった。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)Santa Monica sawa:38[*] makoto7774 水那岐[*] スパルタのキツネ[*] セント[*]

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