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[コメント] 一度も撃ってません(2019/日)

心優しきハードボイルド。予告編を見た時、もっとコメディ色が強いのかと思ったのだが、いやなかなかのハードボイルドだ。「ハードボイルド」という言葉は、ジャンルじゃなく「文体」というか雰囲気を表した言葉であり、「コメディ」は「ジャンル」なので、そもそも言葉の対比は明晰でない、とは思う。
ゑぎ

 要は、主役の石橋蓮司からにじみ出る、優しさと厳しさのバランスが絶妙だということだ。そして、石橋に次いで多くの見せ場がある、本作の桃井かおりも素晴らしい。地階のバー「y」への階段に彼女が登場する、柄本佑もからめたシーンの演出は最高だ。桃井による日本語歌詞「サマータイム」の歌唱を含む、このバー「y」のシーンは、桃井のアドリブだらけじゃないだろうか。私にはそう見えるのだが、その機知と洒脱さに驚かされるし、嬉しくなる。ちなみに、原田芳雄は、多くの映画で、監督をしているのと同じぐらい演出アイデアを出し、採用されたと聞くのだが、原田の「舎弟」と云っても過言ではない、桃井のことだから、かなりの部分は、桃井のアイデアではないかしらん。

 あと、役者では、中国人ヒットマンの豊川悦司(長いメキシカン・スタンドオフ!)、日本人ヒットマンの彼女・井上真央(下ネタ!)のキャラがとてもいい。本作の豊かさに貢献している。

 また、後半で特に顕著になるのだが、緩い高速度撮影を多用する演出も情感創出に奏功する。つまり、ちょっとだけスローなカットの挿入なのだが、よくあるやつやん、と思う観客もあるかも知れないが、石橋の部屋の前にたたずむ大楠道代のカット等、普通やらないカットでもこれをやるのだ。公衆電話で電話をする石橋、路地でタバコを喫う桃井。これらも、ちょっと普通ではない感覚のカットになっている。

 ラスト、深夜の酒場を出た後の、路上場面のロングショットも実にいい。タクシーの後景のピントが外れたところに、男の歩く姿がずっと映っている(全編通じて後景のエキストラ、男女カップル等がしっかり演出されているのだ)。そして、煙草に火をつける所作のストップモーション。優しさと厳しさのバランス。カッコいい!

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (5 人)ぽんしゅう[*] ペペロンチーノ[*] DSCH[*] けにろん[*] シーチキン[*]

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