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[コメント] ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章(2017/日)

これもまた現代日本映画の流行り病に冒されている。すなわち役者が台詞を乗りこなせていない。目標と能力における脚本・演出・演技の軋轢が台詞発語の白々しさとして発症する。甚だ遺憾ながら、いまだメソッド演技なるものは有用らしい。あるいはいっぺん落語の稽古に励んでもらうほうが手っ取り早いか。
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リアリズムとは異なる原理に基づくロケーションと美術に力を注いで視覚娯楽としての落第回避を担保するあたり、さすがに三池崇史はクレヴァな演出家だと感心する。しかし映画の時間を演出しきれていない点は如何ともしがたい。要するに、溜めるべきところに溜めが足らず、軽快に進むべきところでもたつきを起こしている。それがために頓智合戦であるはずのスタンド戦において頓智感が置き去りにされ、何が何やら漠然としたまま画面が展開してしまう。これはひとつに画像情報と台詞情報のバランスの問題でもあるのだろう。想像するに、おそらく漫画家は「コマ割り」「構図」「絵柄(描線・塗り)」等の適切なコントロールによってしかるべき速さの漫画時間を創出するのだろうが、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』はそれを正しく映画化していない。

かように台詞を中心として、原作漫画に忠実であろうとした箇所が映画に停滞をもたらしがちだった一方、いささか意外ながら、原作からの改変箇所は概ね上首尾に行っている。とりわけ主人公の祖父・國村隼の描き込みや、神木隆之介に対する小松菜奈の接近の段取りなど。

 さて、以下は余談となります。原作『ジョジョの奇妙な冒険』は「漫画ばっかり読んでると馬鹿になる!」という強迫観念に縛られて生涯を送ってきた私としては珍しく児童の頃から愛読している漫画で、せっかくの機会ですから、ここにひとつこの漫画にまつわる他愛もない思い出話を記してみたいと思います。

 私が初めてこの漫画をしかと読んだのは小学校高学年の時分、週刊少年ジャンプにおいて、ちょうどこの映画が原作に採用した第四部が連載されている折でした。第四部の中盤に差し掛かるあたりだったかと記憶します。それ以前からちらちら脇目するように摘まみ読みをしたことがあったのは、一週間に一度通っていた耳鼻咽喉科医院(私は当時アレルギー性慢性鼻炎を患っていました)の待合室に最新の週刊少年ジャンプが常に備えてあったためで、読むたびにどこか魅かれるものがあるのを感じてはいましたが、それ以上はあの絵柄に正対する覚悟が欠けていたのだと思われます。そしてその頃、友人たちの間で「大概ジャンプの後ろのほうに載ってる何やら気色の悪い漫画、あれは面白いらしい」という風説がどこからともなく流れ出しました。これを真に受けた私は、耳鼻咽喉科医院待合室の長椅子に腰を据え、ついに『ジョジョの奇妙な冒険』と正面から向き合いました。すると、確かに面白い。重ちーが爆殺されていました。面白い。「ロマンホラー!深紅の秘伝説」の意味は測りかねましたが、面白かったのは確かです。今の私からは考えられませんが、当時の私には少しく猪突猛進の気質でもあったのでしょうか、この漫画は面白いと確信するや否や微々たる小遣い銭を遣り繰りして単行本を一巻から買い揃え始めました。当然、それは友人たちの間で回覧されることになり、その小集団内で突如として『ジョジョの奇妙な冒険』がムーブメントを巻き起こしたのです。数々の流行が誕生し、たとえば第一部においてポコが発する台詞「明日って今さ!」などはその使い勝手のよさから頻繁に会話に取り入れられましたが、とりわけ激しく流行ったのがワムウの「神砂嵐」です。男子数名が休み時間のあいだずっと神砂嵐を繰り出し続けているという光景は決して珍しいものではありませんでした。もちろん、私たちは自分自身のスタンドも夢想しました。私のスタンドの能力は「(給食で配給される)牛乳パック複数個を横に並べる」というものでした。これはスタンド考案会がたまたま給食時に盛り上がってしまったからで、不可抗力の産物というものです。スタンド名はずばり「牛乳横並べ」でした。友人のひとりはこれに並々ならぬ対抗心を燃やし、「俺のスタンドは『牛乳縦並べ』だ!」などと意味不明の文言を抜かし始めました。聞いてみると、牛乳パックを縦に並べるのが能力だそうです。

 私たちはいったいどれほど愚かであれば気が済んだのでしょうか、あの頃を思い出すにつけ、まったく慄然して已みません。

(評価:★3)

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