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[コメント] 河内カルメン(1966/日)

野川由美子! 完璧な美貌ながらそこに人を寄せつけぬ冷たさはなく、能動的かつ受動的な男性遍歴を経ても芯の人格的潔癖を失わず生来の明朗を保つ。演出家が溝口的/今村的な「女性性礼賛に裏付けられたサディズム」を欠くがゆえの魅力的な造型。あるいはそれがカルメン性か。たとえば『故郷に帰る』の高峰秀子も。
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**ネタバレ注意**
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ゴダールが撮影所の雇われ監督だったらこういう映画を撮っていたのではないか」という思いに駆られもする。女優の魅力をクロースアップしながらきっちりと物語を語って職人的に商品としての品質を確保しつつ、「映画であること」を絶えず観客に意識させる純粋に格好よい演出・撮影・美術の数々を放つ。というのは、たとえば野川の着替えシーンの大胆なマスキング。物語が転がりだす契機となる土手シーンのドリーショットと段階的なブラックアウト。ブルーフィルム撮影シーンの照明の使い方が示すメタ映画性。また、とりわけ美術。木村威夫の美術装置には目を奪われっぱなしで、クラブ・ダダや楠侑子の豪邸(夜のシーンで楠邸内部を断面的に提示した画面!)など都会的なそれの格好よさはもちろん、和田浩治のボロアパート内はデコレーションの的確さが光っているし、野川の実家近くの屋外シーンは石垣や堀などで丁寧に画面に傾斜を按配して中古智のようだ(ホントか?)。仰角ショットの多用も装置家に苦労を強いつつその苦労に報いている。

一方で驚くほどストレートに胸を打つ場面もあって、私にとってそれは佐野浅夫のシーンに集中している。野川の乗った座布団を引きずるショット(感動的なドリー!)や排水口に吸い込まれる「エンゲージ・リング」。「怒る」芝居。これは、泣ける。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (7 人)ぽんしゅう[*] disjunctive[*] ゑぎ[*] づん[*] ペペロンチーノ[*]

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