「メメントを世に送り出した監督が．．．」「髪を洗われた少女の遺体．．．」 「衝撃のラスト．．．」「アル・パチーノが再び刑事を演じ．．．」こんな宣伝文句では、二転三転するストーリーがウリのサイコサスペンスを期待するのも当然。で、見に行くとだ、ぜんぜん違うんだよ。

正直、怒りを覚えました。なめんな！

これは文句なしにすばらしい映画です。自分の良心とけじめを護る尊さを示しながらも、同時にその難しさを思い知らせてくれる。あのアル・パチーノが、あの自信まんまんでタフそうに見える刑事が、白夜に悩まされてコソコソと証拠隠滅を図る姿は衝撃的。眠れぬまま、ぼんやりと宙を見上げながら、己が犯している過ちを考える表情は、まるでいつぞやの自分を見ているよう。そして、ラスト。コソコソと逃げ回るのをやめて、すべてに立ち向かう決意をした迷いのない背中。僕は自分の弱さを恥じました。この映画はそんな映画です。

それなのに．．．ああ、皆の声が聞こえてきそーです。「『メメント』と比べるとつまんなかった−」「これじゃ不眠症の人も寝ちゃうよなー」「犯人すぐわかってるやんの。サスペンスになってないじゃん。」「地味な映画ー」ちゃうねん！　そーゆーの期待する映画とちゃうねん！

パンフレットに某ミステリー作家の解説が書いてありましたが、あれも実に的外れ。人が次々と猟奇に殺されて、主役がガンガン名推理して、謎が謎を呼び、銃をバリバリ撃ちまくって、最後に待ってるのはカタルシス！　そんなんじゃなければ、もう人は映画館に足を運ばなくなるなんて、僕は考えたくありません。