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[コメント] フリークス(1932/米)

撮影現場ではフリークス同士で「アイツとは違うんだ」とか言ってたようで、監督は彼等の機嫌を取るのが大変だったとか。フリークス達を聖人君子のごとく扱う人間には、このエピソードの面白さは分かるまい。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 ……そもそも他人から好機の目で見られること自体が、彼等のショービジネスの根幹なのだ。だからこそ劇中でも観られたように、いくら他のサーカス団員から蔑むような言葉を影で叩かれ、からかわれてもひたすら無視する。何一つ言わず去るジョセフィーヌ・ジョセフのあの表情は、暗さというよりもむしろ蔑んだ側に対して無言の反論をしているようである。言っていたとしたら、その言葉は何だろうか?「なんだよ、自分よりつまんない芸しか出来ないくせに」とか……。少なくとも、同情を求めてはいないだろう。

 それでもフリークス達はクレオパトラの言動には激怒したわけだが、彼女が恨まれた一番の理由は、自分達を蔑むだけでなく、同時に彼女が自身の高貴さと純潔さを主張したことである。つまりフリークスから言わせれば「ハァ? 馬鹿かこのタカビー女は? お前さんが純潔だって? 笑わせるぜ!」なのだ。それが分かるのが、クレオパトラの計略をハナから気付いていたハンスの行動である。薬を吐き出し、同じく小人の仲間と打ち合わせをした後、彼はニヤリと笑う。この時の表情といったら! どう見たってあれは軽蔑の顔だ。

 そしてもう一つ気になったのが、あのラスト……。クレオパトラは見世物小屋の鳥女にされたわけだが、あの場面で聴こえてくるのは「ガー、ガー」という鳥同然の鳴き声だけ。ここに、フリークス達の持つ差別意識、すなわちあのサーカス団員達がジョセフィーヌ・ジョセフに対して言っていたあの“他人を蔑む”という行為が見えてくる。フリークス達が彼女を鳥女にしたのは「自分達と同じ思いをさせてやる」どころか「自分達よりも下」にしてやろうという意図がある。「同じ」だったら足が無いとか腕が無いで留まるはずだが、口も聴けないうえに鳥にさせられたのだから、これはもはや動物扱いで人間ですらない。本作に対し「フリークス達の勧善懲悪」という表現をよく聴くが、自分からすればそれもまた真意を捉えてないと思える。善じゃないだろ、あれは。

 それにしても、フリークス達がサーカスでどんな芸をやって場内を沸かせていたのかが気になる。その手を記録したフィルムもやはり「良識を持った人達」の手によって葬り去られたりしてるのだろう。余計なことしやがって。

 ……ちなみに劇中では、フリークスに刺された大男ヘラクレスの生死がラストでは不明になっているが、実は撮影しながらも最終的にカットされてしまった場面があり、そこで彼の結末が描かれていたという。ヘラクレスもまたフリークス達の手にかかり、小人としてサーカスに出ていた、というものらしい。

(評価:★4)

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