俺は自分が興味ある作品は出来るだけしっかり理解し、全力で受け止めたいと思っているため、よく観賞前に前知識を入れることが多い。この作品ではとりあえず親の買ってきたパンフに一通り目を通した（この話に限ってはネタバレってあるもんかなあ、と思ったので）。宗教のことなんて今まで全然知らなかったので、いくらパンフを読んだとは言え、理解できない箇所は多々あった。だが、いつの時代にも共通している人間の愚かさ、愛を感じた。以下、聖書のこと知らないので勘違いもあるかもしれないですが、そこは知らないフリして読み流して下さい。

総督ピラトはキリストをどの刑に処するかの権限を持っていながら、民衆を恐れ、「彼を救って」と言う奥さんと一応の自分の権利を放った。ユダは後に悔いるとは言え自分の利益のために師を売った。もう一人の弟子は「あなたのためなら牢獄なんたら」と言っていたのに、キリストの予言通り「あんなやつ知るかヴォケ」と三回言った。

また十字架を担がされた通りすがりの人も、彼に水を授けた女も、彼を励ますものの命を救おうとはしなかった。あの行動は見てられないほどに傷ついたイエスへの同情だったのかもしれない。「助けたい」と思っても自分の身を案じて出来なかったのかも知れない。後ろめたさを持った兵の何人かもマリアや彼を本気で救おうとはしなかった。できなかった。

だれもが我が身を優先した。だれもが他人のために身を犠牲にすることはできないし、しようとしなかった。

そんな中、キリストだけが違っていた。痛めつけた人間を、自分をあのような運命にした人間を憎もうとしなかった。それどころか彼らのために祈り、彼らの許しを乞うた。イエス・キリストが神の子なのかメシアなのか俺はよく分からない。けれどこの人間の器はまさに神のようであると感じた。

たった一人の人間が、何を信じ、何を考え、何のためにあそこまでできるというのだ？

今なお、彼の教えを信じる人々が存在し、いつまでも人々の心を動かしていることを納得できた。だからと言って、俺が無宗派であることは変わらないと思うが。

イエスは「全てが新しくなるのです」と言った。しかし争いの歴史はいつまでも繰り返され、利己的な人間はいつまで経っても変わらない。メルが長い構想を経て今、この映画を作りたいと思ったのはただ純粋にこの映画を作りたいという想いと同時に、今という時代だからこそ伝えたいものがあったからではないのだろうか？それを語るかのようにフラッシュバックで随所に教えを説くシーンはあったものの、説教臭さを感じることをなかったのは良かった。

それにしても映倫、あんたたち真性のヴァカだろ？この映画の暴力描写は今までに観たたくさんのR-15指定の映画よりずっと凄いと思うのだが。もしコレが公開したときに俺が中学生だとしたら間違いなく観に行っていたはずだが絶対、ショック死しないまでも大変なことになってたから。この作品と同時期公開の『コールドマウンテン』がR-15だった理由はよく分からなかったが、コレがR-15指定ではない理由の方がもっと不可解だった。