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[コメント] スイミング・プール(2003/仏=英)

サスペンスを掻き立てる、緩やかな左右のスクロール。/ ついこないだ『8人の女たち』でハイティーンの末っ子を演じたばかりのリュディビーヌ・サニエが、本作では大胆な裸体を披露しています。彼女の女としての演技に注目です。
スパルタのキツネ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







プールを題材にした作品だけあって、プールのミステリアスな描写にまず目を見張る。とりわけ、裸の娘(リュディビーヌ・サニエ)がプールの死角から潜水で泳ぎながらスクリーンを横にゆっくりと移動する様は、本作で最も印象に残る映像である。また、プールカバーの下のビーチマットを見つけるシーン(水面の盛り上がりは死体ではなかった!)では、マットがスクリーン横にゆっくりと移動する様を、それを素早く巻き取る動作とマットの擦れる音とともに描いており、鑑賞者の不安と好奇心を掻き立てる演出となっていた。このようにスクリーン上を横に流れる映像が本作の特徴と言えるだろう。

ラストでサニエが想像上の人物だったと明かされるが、どこからサラ(シャーロット・ランプリング)の想像の世界になったか?振り返って考えてみた。

まず、サラが別荘に到着し自分の部屋に入ったところで、サラを中心に画面が左右に2度ばかりゆっくりとスクロールするシーンがあった。これは「別荘」と「プール」と「(まだ見ぬ)娘」に、サラが新しい作品のインスピレーションを得ていたことを示していたと思う。 それから(おそらく十字架を外すところから)は、夜中に娘(サニエ)と出会うシーンも含めて、サラの想像の世界だったのだろう。壁の十字架を取り外すシーンは何度かあったが、これはサラが朝目覚めてからの現実の世界と想像の世界の切り替えを示しており、夜中に耳栓を着脱するところも同じような意味を持っていたように思う。

ラストで手を振る想像上の娘(サニエ)が本物の娘に切り替わったように、編集者の娘は別荘にいたようである。また、娘(サニエ)の連れてくる男性が、サニエとは不釣合いなぐらいに美男子にはほど遠い人物であったことも、本当の娘がそこで同じように戯れていたようでもある。

しかし、サラが別荘に行く前に編集者から「別荘には娘がいる」と聞かされていたはずなのに、途中から「娘がいるなんて知らなかった」に摩り替わった点(注1)と、ラストの編集局で2人(サラと本当の娘)が全く面識のない赤の他人のようにすれ違っている点がどうしても引っかかる。

別荘にいるはずの娘がいない、 おそらくそんな静けさが、サラのインスピレーション(先にふれたスクロールの場面)を生んだのではないだろうか? こう考えると、帰国後、サラが編集者に「娘のことを黙っていた」と言ったのは「娘が出かけて不在となること」を黙っていた、と捉えることが出来るし、手を振る娘が入れ替わるシーンは、ドアのガラス越しに実際の娘を観ながら、現実と作品の世界をサラが想像の中で結びつけた映像のようにも捉えることが出来る。

とにかく、もう一回観て確認したくなる作品であった。

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余談ながら、本作のプールサイドに横たわるサニエのポスターは、その青い色使いに映えるサニエの若々しい美体も然ることながら、このポスターを見る人の影が、傍でサニエを見る人(ポスター上に写されていない人物)の影と重なるような構図になっており、素晴らしいものがあります。思わず大サイズのポスターを買ってしまいました(笑)

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注1: 当時劇場鑑賞の記憶を元に推理してみましたが、DVD販売後直ちに再見して娘はロンドンにいたらしいことが判りました(言い訳がましいですが、巻き戻しのできない劇場公開でこういった作品の推理には限界があります、です・・・)。しかし、流れからして、編集者がサラの誘いを断る理由として本当のことを言ったとは限らないですし、サラが別荘の一人ぼっちの静けさに編集者の「口実」から、そこに「いるはずの娘がいない」のインスピレーションを得たと考えれば、あながち無茶な推理でもなかったような気がしますが、如何でしょう?

(評価:★4)

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