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[コメント] スター・ウォーズ 帝国の逆襲(1980/米)

離れていても…
kiona

 大幅に刷新された技術をもって夢物語を堂々と展開できた前作は、それまでのどこか文学的要素を孕んでいた(それ故に許容されてきた)胡散臭いSF、特撮映画達を蹴散らし、今に至ってもメインストリームを支配する技術先行型SF映画の礎となった。新作公開の度に起きるお祭り騒ぎは、もはや宗教の様相をも呈している。かく言うわたくしめは胡散臭い方を信奉する日陰者で、E4(1)を何となく恨めしく思いつつ、E6(3)のぬいぐるみたちが憎めなかったりしつつ、粗大ゴミE1(4)を小馬鹿にしつつも、このE5(2)は好きだったりする。こいつが特撮ちっくな胡散臭い影を湛えた醜いアヒルの子に見えるからだ。

 コマ撮りが愛しい。キグルミが切ない。(次作のあれはヌイグルミ)。ゾイドも出てくる。彼が、くるくるやられてぶっ倒されるとこなんか、怪獣の悲哀だよ。泣きそうになる。総じて無茶ばっかやってる。登場人物達も、前作とはうってかわって、ボロを出しまくっており、非常にリアルかつ好感が持てる。わからず屋のボンクラ主人公に、おバカな伊達男に、年増な姫様の初さ加減に、鬼将軍の親バカっぷりにと、突っ込みを恐れず突き進む話と映像を、人間くさい登場人物達とその葛藤が紡ぐ古き良きSFの香り。

 『エピソード1』には、これがない。喩えるなら、こっちが駄目球団の繰り広げるペナントレース終盤のデッドレースで、あっちはまったりとしたオールスターゲーム、本気か遊びかぐらいの差がある。その差は、こんな部分に表れる。『エピソード1』では、登場人物達がほとんど行動を共にしていた。たまにはぐれはしても、終始ベッタリという印象だった。にもかかわらず彼らの間に、どれほどの心の絆を感じることができただろう? それに比べて、こっちはまずルークとハンソロ・レイア姫組がひたすら離ればなれ、おまけに釜足も離ればなれ。ようやくルークと姫が再会したと思ったら今度はハンソロが離ればなれ、でも彼らはずっと遠い場所にいる仲間を思いあっていた。それが観ているこっちに伝わってきた。

「今すぐ会いに行きたい…。でも、自分には此処でやるべきことがある。だから耐えなきゃならない。」

 “離ればなれ”を巡る葛藤が、観ていてヒリヒリするような切なさを産んでいたのだ。

 これって実は、ハリウッドの娯楽映画が苦手とし続けたものであり、一昔前の日本のアニメが大切にし続けたもの、その象徴なんじゃないだろうか? 七十年代に生まれ、八十年代に幼少期を過ごし、『ナウシカ』、『ラピュタ』、『銀河鉄道999』などなどにヒリヒリさせられた自分は、それと同じ感覚を、アニメ以上のハラハラドキドキを提供してくれた多くのハリウッド・エンターテイメントに感じることが出来なかった。その理由は、後者にこの“離ればなれ”の効能が無かったからだと思う。

 だが、この『帝国の逆襲』は、それを持っていた。希有なハリウッド・エンターテイメントだったのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (10 人)DSCH[*] 甘崎庵[*] 荒馬大介[*] 狸の尻尾 佐保家[*] 死ぬまでシネマ[*] 水那岐[*] tomcot[*] ペンクロフ[*] けにろん[*]

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