コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 隠し剣 鬼の爪(2004/日)

山田洋次監督の、人を斬る、ということにこだわった心憎いばかりの細かい演出がよくきいている。これまでの時代劇とは異なった、新しいリアルさを持った時代劇を生み出していると言っても良いのではないか。
シーチキン

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







たそがれ清兵衛』の拙コメントで、「山田監督にとって最後の時代劇なように思えた。」と述べたのが外れてしまった。人を斬るとはどういうことか、そこにこだわった演出が山田監督の作風とあわないかなと思ったが、山田監督の器量を見くびっていた。

たそがれ清兵衛』に続いて今回も、人を斬るということのリアルさを追求している。従来の時代劇は、リアルさにこだわらない娯楽時代劇があり、それへの反省などもあって、リアルさにこだわった時代劇もあったが、それらはどちらかというと、幕藩体制、武家社会、武士階級というものの実態に目をむけたリアルさを中心にした、社会派時代劇、みたいなものだった。

この映画や『たそがれ清兵衛』はそういう時代劇とは一線を画した雰囲気を持っているように感じられた。

一番しびれたのは、刀の斬れ味をますために、砂の山の中に刃を何度も突き刺し、細かい傷をつける寝刃(ねたば)合わせのシーン。おお、ここまで見せるか、本当に人を斬る準備をしているなあと、興奮させてもらった。

それだけでなく料亭で、家老がこの男は今、人を斬ってきたのだ、というと芸者が「おっかな」とびくっと下がるなど、『たそがれ清兵衛』以来の一貫した監督の演出を感じさせる。

人を斬る、という部分だけでなく、永瀬正敏吉岡秀隆が木刀で組太刀の稽古をした後でも、永瀬が一人で足捌きの稽古をしている。それが後半の決闘シーンの最初に、相手に「捌きは巧いな」という台詞に結びついている。

それに何より驚愕するのは、「鬼の爪」の正体。箪笥から小柄を出してそれを扱う素振りをしたときに、もしやと思ったが、まさか暗殺剣だとは。なかなか凝った技を見せてくるのもうれしい。

剣の師弟関係でも良い。決闘を前に師を訪ねるが、その実戦的な稽古も渋い。真剣で斬りあう時、最初は自分を落ち着くまでは受けに回るという心構えについては語って聞かせるが、実際に相手を斬って倒す技は、立ち会ってみせるだけで語らない。しかし弟子はその稽古の真髄をつかむ、実に渋い。まさに師匠と弟子、というにふさわしい関係であった。

永瀬正敏は、着物姿もそれなりに様になっているし、本当に月代部分を剃りあげて撮影にのぞみ、かつらの役者のそれがいつもきれいに剃りあげられているが、一人永瀬だけは、短い毛が生えた月代で、リアルさと同時に、暗殺剣の遣い手としてぴったりの凄みをきいた雰囲気をかもし出していた。

非常にがんばっていたし、良くできたと思うが、それでもやはり、真田広之には一歩及ばない感じがするのもいなめない。これは永瀬が悪いのではなく、真田がそれだけ優れた役者、ということだろう。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (14 人)カフカのすあま[*] ころ阿弥[*] 死ぬまでシネマ[*] アルシュ[*] TM[*] きわ[*] トシ ペパーミント[*] けにろん[*] Yasu[*] Pino☆ 甘崎庵[*] ペペロンチーノ[*] RED DANCER[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。