[コメント] ローレライ(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
原作のテーマは「未来(希望)を託す者と託された者」。
このテーマを中心に据えたことで、誰もが異口同音に”間違っていた戦争”と考えている太平洋戦争の中で、果敢に戦う男達の姿に説得力と圧倒的な動機づけがなされていた。
樋口真嗣が福井晴敏に提案したという、「第二次世界大戦もの」「少女を出す」「潜水艦もの」という一見マンガちっくな(まあ、出身がそうなだけに)お題を、圧倒的な筆力でねじ伏せ、原爆、人体実験、人喰い、天皇問題、戦後日本の形、日本人のアイデンティティなどありとあらゆる問題を強引に一つの小説にまとめ上げてしまった原作は、日本のエンターティーメント小説の歴史に刻まれるであろう傑作だ。
原作を読んだときに「これを映画にしたら絶対、傑作になる!」と思ったが、これがそもそも映画化を前提とした小説だとは知らなかった。そしてそれを発注し、監督するのはあの平成ガメラシリーズの特撮監督樋口真嗣!。 福井晴敏自身、映画化の作業に参加しているというし、これを期待するなというほうが無理というものでしょう。
で。鑑賞・・・。
ない・・・。 私が楽しみにしていたシーンがない・・・。 心待ちにしていたセリフがない・・・。
ホントに福井晴敏が参加したの??
確かに監督自ら言ったように「原作の答え合わせに終始する」ことがよいとはいえない。 映画用にバッサリ削除しなければならないシーンもあるだろう。 でも、テーマにかかわることをなんで削除した? これじゃ、ヘンテコな潜水艦が戦っているだけの映画じゃないですか・・・。
一番残念なのはラストの「椰子の実」大合唱を切ったこと。 原作での「椰子の実」は意味は”希望”だ。それはつまり、征人とパウラと同義になっている。 テニアン島のB29を迎撃にいく直前、艦長はナーバルと共に二人を放流する。 艦長以下その他乗員は、日本の未来を託して二人を海に流した。それはつまり日本の「椰子の実」ということだ。
映画と同じようにB29を撃墜した後、乗員は「椰子の実」を大合唱しながらアメリカの大艦隊と戦って撃沈する。 原作のシーンは「椰子の実」の大合唱と、凄まじい戦闘シーンと相まって非常に映画的な名シーンであり、福井晴敏が映画化を前提に書いたことがよくわかるところだ。
この原作の一番感動するシーンだ。 なぜこのシーンを切ったんだろう・・・。
残念だ。B29の撃墜シーンよりこっちのほうが見たかったのに・・・。
希望=征人&パウラの描写が全然足りてないので、何で艦長がナーバルを放流するのかも意味不明だし、浅倉のもっともらしい大演説に毅然と反論するシーンのないので、征人がなんのためにいるのかが非常に希薄・・・。 やっぱりあの長大な原作を映画に収めるのは難しかったのだろうか。
演出や特撮は樋口真嗣だけあってクオリティは高いし、脚本もうまいこと原作をクリーンナップしているようにも思える。 しかし、全然映画としては足りていない。原作にあった強烈な”魂”、”想い”みたいなものがこの映画にはない。 原作「終戦のローレライ」を傑作たらしめているのは、この”魂”の部分だ。潜水艦バトルがおもしろいわけではい。
こないだスカパー!で制作者の亀山千広と樋口真嗣が対談している番組を見た。 その中で亀山千広が最初の脚本を読んだときにこう言ったそうだ、
「東映の815モノとかさあ、そういう太平洋戦争ものがやりたいわけじゃないんでしょ?潜水艦モノがやりたいんでしょ?それなら、素直に潜水艦だけの映画にしようよ、と言ったんだよ」
と言っていた。
たぶん、この人が原作のなんたるかを一番分かっていない・・・。 まあ、『踊る大捜査線』の製作者だし・・・。 ビジネス的にいえばその通りなんだが、その程度の認識では傑作は生まれない。 この人がいなけりゃたぶん映画化もしてないんだろうし、無碍に非難もできないが、フジテレビにこういう原作の映画化はしてもらいたくない。
PS.スタッフロールを見ると、庵野秀明、押井守、出渕裕など無駄に豪華なスタッフが名を連ねています・・・。みんな期待してたんだろうな。うーん。ホントにもったいない。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (7 人) | [*] [*] [*] [*] [*] [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。