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[コメント] 4ヶ月、3週と2日(2007/ルーマニア)

独裁政権下の80年代ルーマニア。終盤で息詰まる緊迫感を生んだ、街灯の少ない「暗闇の街」のイメージが、映画を象徴しているようで脳裏に焼きつく…。(2008.09.20.)
Keita

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







パルムドール受賞作という点では、2度その栄冠を手にしているダルデンヌ兄弟作品の手法と似ている。近年のカンヌはこういった徹底したリアリズムの追及がお好みなのでしょうか。

それはさておき、この映画の中ですごくひきつけられたのが、終盤で主人公が中絶をした友人を心配し、彼女を残してきたホテルへ急いで戻り、胎児を処理しようと再び夜の街を彷徨う一連のシーン。暗闇が中心で状況把握がしにくい場面でもあるのだが、その“暗さ”がこの映画を象徴しているように思えたからだ。

工業への人員確保のため中絶が一切禁止されていたチャウシェスク独裁政権下のルーマニアの80年代。経済回復のために国民の食料まで削られ、それらの農作物がすべて輸出へ回されていた危機的状況下で、街灯すらほとんどついていない真っ暗な夜道が印象に残った。しかも、中絶によって体外に取り出された胎児という、見つかったら即アウトな“モノ”を抱えて彷徨っている。そこで生まれてくる緊迫感には胸を締めつけられたし、結局その状況で“埋める”ことはできず、“捨てる”ことを選択せざるを得なかったことも痛々しい。

中絶をした当本人よりも、敏感に物事を感じてしまった主人公。ホテルのレストランにて、一方は中絶した直後に空腹を感じ肉料理を注文し、もう一方はそれを見て水しか注文をしない。そして、主人公は一瞬窓の外をチラっと眺める。疲労感、虚しさ、不安を抱えたような、なんとも言えない表情で…。そのまま映画は幕を閉じるが、あの振り向いたわずかな一瞬が、映画を深いものにしているように思えた。

しかし、この女性映画には、男としてグサっと痛い部分がところどころにあった。中絶が禁止されている時代、しかも出産奨励で避妊具は売られていないという中、女性に比べて男性が追う部分が本当に少ない。だから、中絶医はあんな恐ろしいことができるし、ボーイフレンドの「俺がなんとかする」という言葉に説得力が伴わないのだ。それをすべて背負っているのが女性である主人公・・・。男にはわかりえない重さが、それだけ逆に痛切に感じられるのだ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)寒山拾得[*] 赤い戦車[*] たろ[*] けにろん[*] ジェリー[*] IN4MATION[*] 3819695[*] セント[*]

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