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[コメント] レボリューショナリーロード 燃え尽きるまで(2008/米)

古風なメロドラマを現代的な心理描写で掘り下げる演出には魅了された。ウィンスレットは相変わらずよい女優だし、ディカプリオは改めて凄い役者であった。
shiono

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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ケイト・ウィンスレットは一途な聡明さがよく似合う。女優志願で才能もありそうな、キャシー・ベイツの人物評もさもありなんというキャラクターだ。癒し系の柔らかさが伴う女優さんなのにヒステリックな役どころをこなすのは演技の巧さだろう。一方のディカプリオは美男にして軽薄な愚かさも兼ね備えていて、人物像をすぐには読み取らせない掴みとして生かしている。

さらには、まだ若気の至りが許されそうな彼らの若々しさである。ウィンスレットはその才気によって、ディカプリオはやんちゃなルックスによって、夢を語るその姿は無謀ではあっても、どこか批判を躊躇してしまうところがある。生活の垢を感じさせないのだ。それゆえ、誕生日の夜に唐突に現れた二人の子どもにはかなり驚いた。

(脚本には存在するが、実際に撮ってみたらないほうがよかった、というキャラがこの子どもたちだ。おそらく編集でかなりの部分を切ったのだろうと思わせる。中流家庭を描写するためだろうが、映画が進むにつれ彼らが邪魔になってくるのがわかる。)

幸福の追求を家庭に求めるのか、それともただ自分のために生きるのか、というテーマは普遍的なものなので、この夫婦の対立には共感できる部分も多いだろう。解説者マイケル・シャノンの奇人ぶりも魅力的で、彼の登場シーンも説明的どころか一つの見せ場になっている。

ウィンスレットとディカプリオの心理は手に取るようにわかるのだ。旦那は凡人と群れるのが嫌。これは職場で出世することで満たされる。女房は一生涯主婦でいることに耐えられない、一己の人間として社会に出て行きたい。しかしそれにはすべてを捨てて一人で生きる覚悟が必要だ。ちょうど『めぐりあう時間たち』のジュリアン・ムーアのように。

だから、観客は物語がどのように推移していくかはわかるし、その予測どおりになっていくのであるが、にもかかわらずそこに繰り広げられるディテールからは目が放せない。何を言うのか。それに対してどう返すのか。どんな表情で、いかなる動作を伴って。このスリリングなやりとりはこの上なくエキサイティングだ。

クライマックス、家を出て森に入ったウインスレット。それを追うディカプリオの芝居が極めていい。映像的な技巧で見せる作品ではないが、続くウィンスレットが大木にもたれかかってタバコを吸うビジュアルにも心打たれる。翌朝の朝食のやり取りに含まれる終焉の演出は演劇的な具体性を伴っていて、ここがこの映画のラストシーンであることは明白だ。

その後に続く妻の、堕胎から死という流れは便宜的なオチのように見えたが、ラストカット、補聴器のボリュームを下げてベイツの陰口をフェードアウトさせる愛嬌にはやられた。演出家サム・メンデスの気合の入った一品だ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (8 人)緑雨[*] らーふる当番[*] 秦野さくら[*] kiona[*] カルヤ[*] セント[*] のこのこ[*] ぽんしゅう[*]

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