[コメント] インビクタス 負けざる者たち(2009/米)
かつて、国策として人種差別を行っていた国があった。被差別人種の英雄は投獄され、27年間を孤島の刑務所で過ごした後に、その国の大統領となった。
きっと100年後の教科書にも、その歴史はネルソン・マンデラという人物の名とともに紹介されるだろう。ネルソン・マンデラがどんな人物で、どんな風にその困難と向き合ったのか……その一端を知りたいなら、まずは100年前につくられた『インビクタス』というフィルムを観ればいいよ。100年後の人類に、私は迷わずそう勧めたい。そして言ってやるんだ。
「このマンデラを演ってる役者、FREEMAN(自由の男)って名前なんだぜ、洒落てるだろ?」
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希望と結実の物語として、これほどドラマに満ちた実話も他にないんじゃないだろうか。まっぷたつに割れていた国が、たった1年でひとつになる物語。もちろんあれから10年以上たった今でも南アの一部は外国人の立ち入りが危ぶまれるほどに荒れているし、たとえば同国の作家が撮った『ツォツィ』のほうがずっとリアルに今の南アを描いているんだろう。私がこんなところで言うまでもなく、現実は、世界は、こんなに美しいばかりじゃない。
「だからどうした?」と、イーストウッドは言ってるんだ。「これは、映画だ」と。
世界はエゴと矛盾に塗れていて、誰かは毎日、誰かを痛めつけている。彼は、そんなことはわかっている。イーストウッドは誰よりも、そういう個人を描いてきた男だ。
そのイーストウッドが、希望だけしかない映画を撮った。「希望」そのものを具現化した。きっとこの映画は50年後、100年後の人類にも力を与えるに違いない。
『インビクタス』は、ひとりの男がまるで歴史に仕(つか)われてつくったような映画だった。イーストウッドはいま、遙かなる地平に立っている。
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