[コメント] 悪人(2010/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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もちろん久石譲の不穏さを掻き立てるスコアに喚起されたのも事実だろうが、おそらくそれは、「清水祐一」という人物がどのような人間であるのか、その距離感をつかみきれないことからくる息苦しさだったように思う。
冒頭からしばらく、物語は満島ひかり主観で展開される。その後も、柄本明主観だったり、光石研主観だったり、深津絵里主観だったり、主人公たる「清水祐一」は客体として観察され続け、その人間性はなかなか詳らかにならない。そのことから立ち現れてくる不穏さ。
「謝りたい」と深津の勤める紳士服店を訪れた場面で初めて、その人間性がオープンになり、物語は逃避行劇という新たな衣を纏い転がり始める。
NHK「トップランナー」で妻夫木聡は、監督から「それじゃ陰気な妻夫木くんじゃん。祐一になって。」と言われ続けたと語っていたが、その演技ディレクションは見事に結実していた。
それにしても、だ。「国道を行ったり来たりしていただけ」の深津にしても、「海を見ていると、これ以上逃げ場がないように思えてくる」妻夫木にしても、或いは、田舎で床屋を営む実家を省みず都会で虚飾に満ちた生活を刹那に楽しむ満島にしても、漢方薬詐欺に虎の子を脅し取られる樹木にしても、今のこの国の、とりわけ「地方」で閉塞感を抱えて生きる人々の重い現実感が痛々しいほどに表現されていることには嘆息する。
そして、あの灯台。強風吹き荒ぶ草叢の斜面を越え、深い海を一望する「地の果て」。壮絶なまでの荒涼たる心象風景。
どこか救いを与えてくれる余韻は残るものの、生きることの苦しさに真摯に向き合った秀作。かつてのニューシネマとも通じるものを感じた。今の時代、このような日本映画が増えてくるかもしれない。
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