[コメント] 十三人の刺客(2010/日)
正直、三池崇史は才人ではあっても、自分とは感性の食い違いが極端な監督であるのだが、この作品が傑作と呼ばれることに異論はない。正義を口にする主人公側もまた、悪逆非道の敵と同じく殺戮のカタルシスに踊らされている観はあるが、それこそが三池の彼らしい映画ダイナミズムにつながるものなら、否定し去る手はあるまい。
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映画を見終った人むけのレビューです。
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三池作品でも落胆の度の激しすぎた『スキヤキウエスタン ジャンゴ』を連想させる点は嫌悪感が残る。宿場町の娘たちを食い尽くした伊勢谷友介が、岸部一徳のおかまを掘るシーンは、明らかに『ジャンゴ』の石橋貴明が伊勢谷友介を背後から襲うシーンと同じく三池のお気に入りギャグとして等価値であり、三池作品らしいといえばらしい。
しかし、明確に嫌悪を誘われたシーンはその程度の末端のみであることは、即ち本作が実に三池らしくありながら、なおさらに評価できる作品であることの証左だ。世評の高い稲垣吾郎の色悪にとどまらない突き抜けた悪人ぶりも、その手によって見るも無残な姿にされた百姓女を見て「面白い」と武者震いを感じ、去勢された武士たちの中で自らの武芸を役立てられる喜びに笑みを浮かべる、役所広司らはみ出し侍たちと同じ人種に属することは疑うべくもなく、彼らの激突が江戸時代らしからぬスペクタキュラー時代劇の軸を成す、きわめて好戦的で胸躍る三池作品・最良の一作に本作を仕立てた事実は否定できない。
残酷の限りを尽くす画面にもかかわらず、妙にドライで、ユーモラスな雰囲気すら漂わす本作には、たとえば仇討ちモノの湿っぽさは微塵もなく、次々に倒れ死んでゆく侍たちのために流す涙すらも期待されない。これは脚本と演出の静かなる戦いの結果だろう。水と油は、ここにおいて最初から交じり合う気配すら見せず、結果的に良い効果を生んでいるといっていいだろう。
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