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[コメント] キック・アス(2010/英=米)

「青春の純朴」を笑えばいいのか、「正義の相対化」なのか、しゃら臭い言説を一切無視して血に酔えばいいのか、マジなのかフェイクなのか、批判的なのか無自覚なのか、全く間合いをはかることが出来ず、当惑の内に振り落とされた。暴力/笑い/狂気/悲しみ/流血。あらゆる匙加減が狂っている。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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それは全て良くも悪くも「正義」の倒錯父子による殺戮乱舞のゴア描写と、主人公の素朴な懲悪志向抜け作描写のバランスを、微妙に本気で過剰な「盛り」が壊していることに起因する。このアンバランスこそが作劇上の意図だとは理解するのだが、狂気がユーモアを凌駕していいお話ではないと思う。加減が難しいお話なのですが。

主人公の「暴力による洗礼」の果てのエグい世界への詠嘆は、対する「正義の暴力」が鮮烈であればこそ際立つし、コスチュームの素朴なアホさも客観的冷静な「おちょくり」が入っていてそれなりに気持ちいい。しかし「正義の相対化」「暴力の螺旋地獄」提示の一つの到達点である『ダークナイト』を経た今ではさすがに新鮮味は感じない。そのことについては非常に自覚的で、ラストはその自覚が顕著だ。ならばこのテのお話のゴア描写には映画的「暴力の作法」(匙加減)に目配せした上で「ケレン」と「笑い」を持たせるべきだろう・・・もともと「正義を笑う」というユーモアありきで走り出しているわけですからね。

しかしそのへん自覚的かと思いきやヒットガールのマジ描写は完全に針が振り切れて完全に「目的」と化している。ヤられる側も何だか本気で「殺られてる」感が強く、意表を突くBGMは狂気盛り過ぎでキューブリック的な諧謔があるでもなく全く笑えない。つまり、作り手が無自覚に血に溺れている。「評判悪くても結構」なのは結構だが、コンセプトからして終始狂気がユーモアを凌駕していいお話ではないと思うんだよな。「笑わせようとしているわけではないらしい」ことに気がついたときには既に映画は佳境を迎えていたのだ。これはミスリードというよりも、私の目には「解せない」ものに映る。

モレッツをめぐる悲劇性も微妙。狂気と笑いが上手に睦み合っていて欲しかった。対するユーモアもコスチュームに頼りっぱなしでしかも一貫して大して笑えず、モレッツへの批判的ツッコミ不在で放置された結果モレッツが浮いている。浮いているのが悪いのではなく、「浮きすぎている」のが悪いのだ。主人公が最後まで無自覚なのも理解出来ない。

モレッツの表情の映画的引力は確かに素晴らしいし、常人に理解できないところで成立する絆から生み出される「異様な愛」の台詞は本来愛してやまない類いのものだ。単体としてビッグダディの救出シークエンスを観れば、確かにこれは落涙ものである。ケイジの「クリプトナァァァイッ・・・!」「次はロビンの復讐だ!」との絶叫は絶賛に値する。しかし全体のバランスの中で観たとき、これは心から愛すべきものには昇華しない。微妙な「盛り」で崩れ去る残念な作品。あと、申し訳ないけど、「今風スタイリッシュ」なアクションの節回しも実のところ口に合わない。モレッツの出来で誤摩化しているようにしかみえません。

(評価:★2)

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