[コメント] 桐島、部活やめるってよ(2012/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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時系列を切り貼りし、様々な人物の視点から同じ日を見せてゆく手法。おやおや大丈夫かと思いきや、これが意外と細部まで気配りの行き届いた親切設計で感心する。まーここで混乱させるようでは話にならないんだけど、ちゃんとした映画だなーと安心して物語に集中できた。お話は様々な高校あるあるが満載で、かなり楽しめた。
表面的に彼らを支配しているように見える学園カーストが、その中心人物が不意に消えることをきっかけに崩壊する。崩壊の過程で見えてくるのは、夢中になれる大切なものを抱えて今を生きる者こそが真の勝者なのだという「人生カースト」の構図である。学園カーストが人生カーストに塗り変わってゆく、その序列の大変動を見せる映画だということがだんだん明らかになってくる。
勿論、大半の登場人物は最後までそのことに気づかない。クイーンビーは偉そうで、サイドキックもクソ女だ。映画部の負け犬フェイスも変わらない。帰宅部のヒロキ君だけが唯ひとり構図の逆転に気づき、呆然として映画は終わる。
だからこれは、思春期を遠い記憶の彼方に置いてきた我々おっさんおばはんを慰めてくれる映画なんだと思う。「そうそう、あの頃のカーストは今思えばヘンだったよな」と思春期の答え合わせをするだけで、なんぼか救われた気にもなれるという寸法だ。
しかし、思春期真っ只中の現役世代にはこの映画どうなんですかね。若者は、「今」勝つことを切に望んでいるのだ。今、ジョックスにナメられたくない。今、映画好き美少女と仲良くしたい。今、やりたいことをやりたいんだ。だから思春期世代に「なんだこの映画、気分悪いわ」と思われても仕方がない面もある作品と思う。いや実際、上映が終わって「けっこういい映画だったなあ」なんて思ってたら、隣の席の若い女の子たちが「なんかさー、なんも解決してなくね?」とか言っててギョッとしたんだよな。たぶんオレだって思春期に観たとしたら、映画全編に漂う「諦念」、その後ろ向きの感覚に苛立っていたことだろう。
映画好きと思われた美少女が、実はチャラ坊の彼女で映画にも興味なかったなんて夢敗れる展開に、オレの如き負けに負け慣れたおっさんは「そうそう、そんなもんだよ少年」と納得する。この映画のそこそこ誠実なところだとさえ思う。しかし現役の思春期世代からすれば何コラタココラ、ふざけんなってやってやるって! と激昂していい酷な展開だ。つべこべ言わずに長澤まさみ出せって! ベッドでドンペリニヨンだって!
まあ、地道にゾンビ映画作るしかないよな。いい顔した野球部の主将みたいに、みんなそれぞれ自分の戦場で闘うしかないんだ。そのうちたぶんいいこともあるよ、高校行ってるうちは絶対ないけどな! という、暖かいんだか冷たいんだかよく判らぬ映画だと思いました。
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