[コメント] 江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間(1969/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
石井輝男監督のこの作品の凄いところは、内容のキワドサ、配役の怪しさという「特異性」と、絶対的な映画技術が両立しているところです。
石井監督はカメラマン出身で、同業者からも「編集の天才」なんて云われています。彼は、フィルムに焼き付けられた映像で美しいところ、面白いところだけを残し、あとはバッサリ切り捨ててしまうそうです。役者の表情が崩れたり、ポーズがよれたりしたときに役者に注文をつけ動きを制御し一から撮り直すのではなく、伸び伸び演じさせ良いところを後で編集で繋いでいくのです。
『江戸川乱歩劇場 恐怖奇形人間』というのは石井監督のそういう天才性が最も顕著の顕れた作品であります。特に前半のテンポの良さは他の追随を許しません。おびただしいカットを矢継ぎ早に次いでいきながら、一つ一つのシーンは良く練られているから説明的という印象からは程遠く、むしろスリリングで面白みが倍増している。吉田輝雄本人によるナレーション(口語・一人称・現在形)も特に効果的で、「濃縮小説」というSF小説のジャンルになぞらえれて「濃縮映画」とも云えるような出来映えです。
こういう前半のテンポ良い面白さがあるからこそ、多くの方が言及している後半、土方巽&暗黒舞踏がユラーリと踊るパノラマ幻想異化効果が冴え、ラストの逸脱ぶりに館内が大爆発するわけです。
僕はこの映画を完璧な映画だと思います。人間が根源的に求める面白さを満たしてくれるという点で巨匠・江戸川乱歩に肉薄した作品とも思います。どうかこのままソフト化などされず(良識などで語られて欲しくない!)コアで真摯な映画ファンに愛され続けて欲しい、そんな映画です。
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