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[コメント] 地獄の黙示録(1979/米)

鳴り響くワルキューレとともに解き放たれる攻撃本能。見境のない凄惨な暴力。超現実的なまでに壮大な浪費。正気を失ってゆく兵隊たち…。彼らを狂わせたものは何だったのか?―

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







残念ながら、コッポラはそれを描くことに失敗している。

原作の小説『闇の奥』は以下のような物語だ。交易会社の有能な代理人クルツ氏(映画におけるカーツ大佐)は教養ある理想家で、「野蛮」な未開地に「文明」の光をもたらしたいという宣教師的使命感を抱いてアフリカの奥地へ赴任する。しかし、彼はそこで狂気のような行為に走る。文字通り「神」として原住民に君臨し、奇怪な儀式を執り行い、殺戮を繰り返しつつ、膨大な象牙を収集するのである。彼は狂ったわけではなく、明晰なまま蛮行を犯すのである。原作者ジョセフ・コンラッドは、圧倒的に優位な武力を持って異人種に臨んだ人間の止め処のない自己肥大を、キリスト教徒の内心に潜む超自然的存在として振る舞いたいという欲望を、容赦なく暴いている。コッポラはここをうまく描くことが出来なかった。彼の描くカーツ大佐はぶつぶつ言っている病人にしか見えない。

しかし、全体としてはわけのわからないものであったとしても、この映画が傑作であることは間違いない。ヘリに吊り上げられる山羊、作戦中の兵士の横でカメラを回すテレビクルー、プレイメイトの慰問ショー…支離滅裂で、幻想的、まるでフェリーニのような映像だ。これほどの混沌を自ら作り出したというだけでも、コッポラは賞賛されるべきだ。

ところで、この映画について書いていると、どうしても太平洋戦争へと連想は広がる。日本の都市を焼き尽くしたあの大空襲を実行したパイロット達の頭の中には、やはりワルキューレが鳴り響いていたのではなかったか?マッカーサーは「野蛮」の地に「文明」をもたらさんとして日本に赴任し、そして「神」として崇められたのではなかったか?…あまり愉快な想像ではないが、歴史の真実の一端を突いているのではないだろうか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (9 人)ロープブレーク[*] カレルレン[*] sawa:38[*] くたー[*] chokobo[*] 荒馬大介[*] けにろん[*] ぽんしゅう[*] ゑぎ[*]

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